2010年12月7日火曜日

詩人の都──編集室だより①


 毎年11月20日前後に行われる外語祭(学園祭)が終わると、大学構内はすっかり冬の気配に包まれます。そんな年の瀬にお知らせを三つほど。

 まず、新刊が出ました。ジリアン・ビア著『未知へのフィールドワーク──ダーウィン以後の文化と科学』は、ダーウィンの『種の起源』に象徴されるように、19世紀から20世紀にかけてめざましい変貌を遂げた知的・思想的状況をふまえ、数々の学問分野における豊かな成果を丹念に渉猟しながら、人間の知識と経験の変容をさぐる研究論文集。本学の鈴木聡先生渾身の翻訳です。


 12月9日(木)には、毎年恒例の本学附属図書館公開講演会が開かれます。今年は詩人のアーサー・ビナードさんをお招きし、『もしも文字がなかったら──未知のことばをもとめて』という刺激的なテーマでお話しいただきます。ビナードさんは『日本の名詩、英語でおどる』(みすず書房・2007年)で、日本の近現代のすぐれた詩を英訳し、鑑賞を試みていますが、この本で取り上げられている26名の詩人のうち、3名が本学出身者なのです。すなわち、中原中也、石原吉郎、岩田宏。本学は詩人を育む学舎なのですね。

 ところで、ビナードさんは、この本のまえがきでこんな言葉を引用しています。
 The past is a foreign country: they do things differently there.
 「過去とは一種の外国だ。そこではみんな、様子もやり方も違う」

 これは、イギリスの作家L. P. ハートレーの小説『橋渡し』の冒頭の一節。なんとも感銘深い言葉ですが、すぐれた詩は私たちを時空を超えた異国に誘ってくれるようです。


 12月11日(土)には、本学総合文化研究所・出版会共催でシンポジウム「世界文学としての村上春樹」が開催されます。世界各地で多くの読者を魅了する村上春樹の文学は、世界文学としてどのように位置づけられるのか。日本・中国・ロシア・アメリカの国民的作家らとの比較を通して、春樹文学の世界観と魅力を捉え直します。

 師走の喧噪を離れ、本学で冬のひとときを過ごしてみませんか。

(R)