2011年6月7日火曜日

アントニオ・タブッキ著『他人(ひと)まかせの自伝──あとづけの詩学』(和田忠彦/花本知子訳)刊行


 このたび本学の和田忠彦先生が翻訳し解説を書かれたアントニオ・タブッキ著『他人(ひと)まかせの自伝──あとづけの詩学』(岩波書店)が刊行されました。

著者:アントニオ・タブッキ
翻訳:和田忠彦/花本知子
編集:古川義子
岩波書店 2011年5月24日
本体1900円 四六判・上製・カバー・164頁
ISBN 978-4-00-024509-8

 アントニオ・タブッキは、1943年生まれのイタリア人作家で、目下、その発言や振る舞いが注目されている作家です。邦訳も数多く、本書で取りあげられている『レクイエム』『遠い水平線』『ポルト・ピムの女』などの他にも、主な著作に『インド夜想曲』『逆さまゲーム』『夢のなかの夢』『フェルナンド・ペソア最後の三日間』などがあります。

 本書は、タブッキがこれまでの自作小説のいくつかについて初めて語った批評的エッセイ集です。「自伝」と聞けばややもすると、著名作家の着想の裏話、または文章を書く際のヒント、はたまた作品創作の苦労話などを、ここに求めてしまうかもしれません。けれども、この本が読者に投げかける企図はもっともっと深遠で多層で本質的です。なぜなら本書は「小説という器に盛った空想の産物こそが真理との邂逅をもたらしうるのだという信念にも似た信頼感がうんだ書物」(和田忠彦)であり、「自分の作品について語るふりをして、文学を語るための」(タブッキ)書物でもあるからなのです……。

 皆さんもタブッキに誘われるままに想像と現実のあわいを旅しつつ、文学創作の秘密をたどってみてはいかがでしょうか。

*本書が「週刊ブックレビュー」(NHK・BSプレミアム)で紹介されます。書評者は、小説家の堀江敏幸さんです。こちらもぜひご覧ください。なお放送予定日時は以下です。
 ①7月2日(土)午前6:30~7:24【朝】
 ②7月4日(月)午前2:00~2:54【3日日曜日・深夜】
 ③7月8日(金)午後0:00~0:54【昼】

*本書が「毎日新聞(2011.6.12朝刊)」の“今週の本棚”コーナーで紹介されました。書評者は「週刊ブックレビュー」に引きつづき堀江敏幸さんです。

■目次:
『レクイエム』について
 一音節のなかの宇宙──ある小説をめぐるさまよいの記録
『ペレイラは証言する』
 ペレイラの出現
『遠い水平線』について
 それにしてもスピーノ氏はなぜ笑うのか
 検死
『ポルト・ピムの女』について
 迷宮炎
 かつてのクジラ。帰還のタンゴ
『いつも手遅れ』の周辺で
 ネット上で
 他人まかせの自伝
 先立つ未来──欠けた手紙
 ある写真の物語
初出一覧
訳者あとがき──タブッキの時間認識と虚構をめぐって(和田忠彦)
人名索引

■訳者紹介:
和田忠彦(わだ・ただひこ)
1952年、長野県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。専攻、イタリア近現代文学・文化芸術論。現在、東京外国語大学副学長。著書に『ヴェネツィア 水の夢』(筑摩書房、2000年)、『声、意味ではなく──わたしの翻訳論』(平凡社、2004年)、『ファシズム、そして』(水声社、2008年)、主な訳書にアントニオ・タブッキ『夢のなかの夢』(青土社、1994年)、『フェルナンド・ペソア最後の三日間』(青土社、1997年)、イタロ・カルヴィーノ『むずかしい愛』(岩波文庫、1995年)、『パロマー』(岩波文庫、2001年)、『アメリカ講義』(岩波文庫、2011年)、『ウンベルト・エーコの文体練習』(新潮文庫、2000年)ほか多数。

花本知子(はなもと・ともこ)
1978年、広島県生まれ。東京外国語大学大学院博士後期課程修了。専攻、イタリア現代文学・文化論。現在、京都外国語大学イタリア語学科・京都外国語短期大学講師。『和伊中辞典〈第二版〉』(小学館、2008年)改訂作業に参加。