今回、取材にお邪魔したのは東京都豊島区にある「リブロ池袋本店」です。これまでに訪れた「高美書店」や「しまぶっく」とは異なり膨大な数の新刊本を取り扱う超大型書店です。一昨年の10月末には大規模な改装工事が行われ、さらに魅力的な書店へと変貌しました。そして「リブロ」といえば1980年代に徹底した個性的な書棚づくりと店内のしつらえで、書店界に新風を吹き込んだ書店でもあります。……と言っても今日の私のお目当ては池袋本店書籍館のマネージャーをお勤めの辻山良雄さんです。
辻山さんは97年からリブロにお勤めになっています。また書店員としてのお仕事の他さまざまなブックイベントにも積極的にかかわっています。なかでも特筆すべきは、2008年からつづくBOOKMARK NAGOYA(以下ブックマーク)です。ブックマークは、名古屋市を中心とした50店舗もの新刊書店や古本屋、雑貨屋などを巻き込んでおこなわれるブックフェスティバルです。辻山さんはこのブックマークを立ち上げた一人です。
書店での通常業務の枠におさまらない辻山さんに、これまでの経歴やブックマークについて、そして理想とする書店像や電子書籍などについてお聞きしました。
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今回取材をさせていただいた辻山さん。
池袋本店書籍館をとりしきっています。
池袋本店書籍館をとりしきっています。
────リブロに入社されたきっかけは何だったのですか?
【辻山】1996年にアメリカに旅行した時に、「Barnes & Noble」に行ったことがありました。そこには美術書などがゆったり座って読めるスペースがあり、こんなのが日本の本屋にもあればいいな、と思いました。そうして日本に帰って来てみると、その当時のリブロ池袋本店にそうしたスペースがあり(いまはなくなってしまいましたが)、それは当時の日本ではめずらしかったのです。おそらくこういったことがきっかけになってリブロにひかれ、ちょっと受けてみようかな、と思ったのですが、もともと書店員になりたいという強い思いがあったわけではありませんでした。
当時から本は好きでしたが、本について詳しいかと言うとそうでもなく、本そのものの形状や本がある空間が好きなんです。だから、本に囲まれた書店に就職するというのは自分にとってとても自然だったのかもしれません。
一般的には書店員は読書家だと思われたりしますが、少なくとも私に関しては実はそうでもありません(笑)。家庭環境を思い返してもそれほど本の多い家ではありませんでした。ただ受験生のときに家から予備校が遠かったので、電車のなかでサリンジャーなどの海外文学を読んでいました。そのときにこういった世界もあるのかとすこし書物の世界に目覚めたのだと思います。そう言えばそうした外国文学から、当時はやっていた記号学や言語学の本も読んだりしていましたね。
────リブロ名古屋店の店長をされているときにブックマークにかかわられますね。きっかけは何だったのですか?
【辻山】私と「YEBISU ART LABO(エビスアートラボ)」というセレクトブックショップを営む岩上杏子さんが立ち上げメンバーでした。彼女のお店には古本があったので、はじめはリブロ名古屋店のなかでそれを売りたいね、というところから話がはじまりました。そうしたらいつのまにか、名古屋でも福岡の「ブックオカ」のようなブックフェスティバルをやりたい、とどんどん話が大きくなっていったのです。
なぜこんなに早く大きなイベントになっていったかと言うと、東京にくらべれば名古屋の書店は、街の規模がそれほど大きくなく、横の繋がりが強くて、新刊書店同士だったら気軽に声をかけられる環境にあったからだと思います。ブックマークには書店だけでなく、雑貨屋さんなども多数参加していますが、そうしたお店に関しては、岩上さんが良く知っていました。
────なぜ雑貨屋さんも加わってもらおうとお考えになったのですか?
【辻山】今は、本は本屋にしか売っていないという時代ではありませんよね。本というものに少しでも光が当たるのであれば、入口はどこでも良いわけですし、むしろ本屋以外の方が本の持つ可能性を掘り起こせるのではないかと考えました。
それに名古屋には小さいけれども魅力的なお店が沢山ありますが、その当時はあまり世の中に知られていませんでした。古本屋を含めた書店にしても名古屋にはそれぞれ特色があって、とても多様なお店がいっぱいあったんですが、どうも一般の人にはあんまり知られていない。ブックマークをやる以前から、そのことが頭のなかには常にあって、いつかそうしたお店を集めた名古屋の書店ガイドみたいなものを作りたいなと思っていたんです。そんなことを考えている時に、『SCHOP』(スコップ)というフリーペーパーを作っている上原さんがたまたまリブロに取材に来ました。彼が作っている雑誌を見せてもらうと昔の『relax(リラックス)』のような雑誌だった。この人とだったら面白いものを作ったり、やったりできそうだと思って、ブックマークにもお声がけしました。小さなことから大きなことまでこうした人の環みたいなのが何となくできて、それがどんどん繋がり、BOOKMARK NAGOYAの原型みたいなものができました。
────2008年2月に行われた1回目から、いまやかなり大規模なブックフェスティバルになりましたよね。予算などはどこから捻出されていたのですか?
【辻山】まず参加店から5000円ずつお金を募りました。そしてそのお金をもとに共同のリーフレットをつくっていたので、そのリーフレットに載せるひと枠5000円の広告収入もありました。参加店が約50店舗で、広告が80枠くらいありましたから、全部で60万円くらいにはなりました。開催していたイベントに関しては、入場料などのイベント収入がありますから、できるだけそれで帳尻が合うようにしていました。そういったやりくりで赤字が出ない程度には開催できました。
────これまでたくさんの書店で中心的な役割を担われ、ブックマークをはじめとした多くのイベントにも関わられた辻山さんにとって、理想の本屋とは?
【辻山】上手くは言えませんが、常に何かが変化しているということでしょうか。それは書棚が変わったり、フェアが行われていたり、イベントのようなものが開催されていても良いと思います。小さなことでもいいですし、もちろん大きなことでもいいのですが、常に毎日なにかが変わっていることが大切なのだと思います。
お店に小さな変化を与える事は、読者がその本を見て手にとる事を促し、読者はその本を読むことによって、自分自身が変わり、新しい行動にうつしだすきっかけに繋がります。書店は、そういった出会いの場であり、きっかけの場でもあり、世の中がちょっとでも良くなるように手助けする場でもあると思っています。それらを促すための社会的な装置なのだと思います。
そこに自分の「好み」もすこしだけ反映させつつ、もともと本に備わっている“人を行動に駆り立てる何か”を引き出し、読者に届けたいのです。これが私の仕事だと思っています。もちろんこうした仕事のなかには、大きく派手なものばかりではなく、地味だけれどもけっしておろそかにできない小さくて細かい仕事も含まれます。
────大型書店になればなるほど書店員さんの「好み」は見えにくくなり、書棚が平板化されていくように思えます。人間の体温が感じられるような書棚を見てみたいといつも思っています。
【辻山】組織のなかでやっているので、難しい部分もありますが、リブロはその辺りが伝統的に自由な会社だと思います。そういった体温が感じられるような書棚を作っていくようにはいつも心がけております。
個人的には、本は格好良いものであるとか、本を読む事自体が格好良い行為であるとか、そうした流れを作っていきたいと思います。そうするためには書店員が本と出会う場を素敵な空間に演出しないといけませんし、出版社さんにも思わず手にしたくなるような本をたくさんつくってもらわないといけません。
────電子書籍に関しては、どう思われていますか?
【辻山】読書の体験がない人というのは、世の中に本当にいっぱいいるので、電子書籍がそのとっかかりにすこしでもなるのであれば、それは良いことです。少なくともまず読書という体験に気付いてもらわないといけませんので。
けれども私はリアル書店の書店員としてここにいる以上は、物としての本の魅力や特質を伝えることが仕事だと思っています。それにはまずは本のある空間である事、という魅力を高め、ここで出来ることを愚直に押し進めることだと思います。
【辻山】1996年にアメリカに旅行した時に、「Barnes & Noble」に行ったことがありました。そこには美術書などがゆったり座って読めるスペースがあり、こんなのが日本の本屋にもあればいいな、と思いました。そうして日本に帰って来てみると、その当時のリブロ池袋本店にそうしたスペースがあり(いまはなくなってしまいましたが)、それは当時の日本ではめずらしかったのです。おそらくこういったことがきっかけになってリブロにひかれ、ちょっと受けてみようかな、と思ったのですが、もともと書店員になりたいという強い思いがあったわけではありませんでした。
当時から本は好きでしたが、本について詳しいかと言うとそうでもなく、本そのものの形状や本がある空間が好きなんです。だから、本に囲まれた書店に就職するというのは自分にとってとても自然だったのかもしれません。
一般的には書店員は読書家だと思われたりしますが、少なくとも私に関しては実はそうでもありません(笑)。家庭環境を思い返してもそれほど本の多い家ではありませんでした。ただ受験生のときに家から予備校が遠かったので、電車のなかでサリンジャーなどの海外文学を読んでいました。そのときにこういった世界もあるのかとすこし書物の世界に目覚めたのだと思います。そう言えばそうした外国文学から、当時はやっていた記号学や言語学の本も読んだりしていましたね。
────リブロ名古屋店の店長をされているときにブックマークにかかわられますね。きっかけは何だったのですか?
【辻山】私と「YEBISU ART LABO(エビスアートラボ)」というセレクトブックショップを営む岩上杏子さんが立ち上げメンバーでした。彼女のお店には古本があったので、はじめはリブロ名古屋店のなかでそれを売りたいね、というところから話がはじまりました。そうしたらいつのまにか、名古屋でも福岡の「ブックオカ」のようなブックフェスティバルをやりたい、とどんどん話が大きくなっていったのです。
なぜこんなに早く大きなイベントになっていったかと言うと、東京にくらべれば名古屋の書店は、街の規模がそれほど大きくなく、横の繋がりが強くて、新刊書店同士だったら気軽に声をかけられる環境にあったからだと思います。ブックマークには書店だけでなく、雑貨屋さんなども多数参加していますが、そうしたお店に関しては、岩上さんが良く知っていました。
────なぜ雑貨屋さんも加わってもらおうとお考えになったのですか?
【辻山】今は、本は本屋にしか売っていないという時代ではありませんよね。本というものに少しでも光が当たるのであれば、入口はどこでも良いわけですし、むしろ本屋以外の方が本の持つ可能性を掘り起こせるのではないかと考えました。
それに名古屋には小さいけれども魅力的なお店が沢山ありますが、その当時はあまり世の中に知られていませんでした。古本屋を含めた書店にしても名古屋にはそれぞれ特色があって、とても多様なお店がいっぱいあったんですが、どうも一般の人にはあんまり知られていない。ブックマークをやる以前から、そのことが頭のなかには常にあって、いつかそうしたお店を集めた名古屋の書店ガイドみたいなものを作りたいなと思っていたんです。そんなことを考えている時に、『SCHOP』(スコップ)というフリーペーパーを作っている上原さんがたまたまリブロに取材に来ました。彼が作っている雑誌を見せてもらうと昔の『relax(リラックス)』のような雑誌だった。この人とだったら面白いものを作ったり、やったりできそうだと思って、ブックマークにもお声がけしました。小さなことから大きなことまでこうした人の環みたいなのが何となくできて、それがどんどん繋がり、BOOKMARK NAGOYAの原型みたいなものができました。
────2008年2月に行われた1回目から、いまやかなり大規模なブックフェスティバルになりましたよね。予算などはどこから捻出されていたのですか?
【辻山】まず参加店から5000円ずつお金を募りました。そしてそのお金をもとに共同のリーフレットをつくっていたので、そのリーフレットに載せるひと枠5000円の広告収入もありました。参加店が約50店舗で、広告が80枠くらいありましたから、全部で60万円くらいにはなりました。開催していたイベントに関しては、入場料などのイベント収入がありますから、できるだけそれで帳尻が合うようにしていました。そういったやりくりで赤字が出ない程度には開催できました。
────これまでたくさんの書店で中心的な役割を担われ、ブックマークをはじめとした多くのイベントにも関わられた辻山さんにとって、理想の本屋とは?
【辻山】上手くは言えませんが、常に何かが変化しているということでしょうか。それは書棚が変わったり、フェアが行われていたり、イベントのようなものが開催されていても良いと思います。小さなことでもいいですし、もちろん大きなことでもいいのですが、常に毎日なにかが変わっていることが大切なのだと思います。
お店に小さな変化を与える事は、読者がその本を見て手にとる事を促し、読者はその本を読むことによって、自分自身が変わり、新しい行動にうつしだすきっかけに繋がります。書店は、そういった出会いの場であり、きっかけの場でもあり、世の中がちょっとでも良くなるように手助けする場でもあると思っています。それらを促すための社会的な装置なのだと思います。
そこに自分の「好み」もすこしだけ反映させつつ、もともと本に備わっている“人を行動に駆り立てる何か”を引き出し、読者に届けたいのです。これが私の仕事だと思っています。もちろんこうした仕事のなかには、大きく派手なものばかりではなく、地味だけれどもけっしておろそかにできない小さくて細かい仕事も含まれます。
────大型書店になればなるほど書店員さんの「好み」は見えにくくなり、書棚が平板化されていくように思えます。人間の体温が感じられるような書棚を見てみたいといつも思っています。
【辻山】組織のなかでやっているので、難しい部分もありますが、リブロはその辺りが伝統的に自由な会社だと思います。そういった体温が感じられるような書棚を作っていくようにはいつも心がけております。
個人的には、本は格好良いものであるとか、本を読む事自体が格好良い行為であるとか、そうした流れを作っていきたいと思います。そうするためには書店員が本と出会う場を素敵な空間に演出しないといけませんし、出版社さんにも思わず手にしたくなるような本をたくさんつくってもらわないといけません。
────電子書籍に関しては、どう思われていますか?
【辻山】読書の体験がない人というのは、世の中に本当にいっぱいいるので、電子書籍がそのとっかかりにすこしでもなるのであれば、それは良いことです。少なくともまず読書という体験に気付いてもらわないといけませんので。
けれども私はリアル書店の書店員としてここにいる以上は、物としての本の魅力や特質を伝えることが仕事だと思っています。それにはまずは本のある空間である事、という魅力を高め、ここで出来ることを愚直に押し進めることだと思います。
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以下、写真とともに辻山さんオススメの書棚をいくつかご紹介します。
このフェアは、昨年の11月18日より池袋本店書籍館1F人文書コーナーではじまった、文芸誌『en-taxi』とのコラボレーションブックフェアです。『en-taxi』棚には、バックナンバーや関連本、月替わりの同人セレクション本が並んでいます。
同人で批評家の福田和也さんと坪内祐三さんをホストに『en-taxi』ゆかりの作家をゲストとして迎えての連続トークショー『エンタク学校』も開講しています。
同人で批評家の福田和也さんと坪内祐三さんをホストに『en-taxi』ゆかりの作家をゲストとして迎えての連続トークショー『エンタク学校』も開講しています。
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書籍館の1Fには、“現在を読みとく思想地図”をコンセプトにしたカルトグラフィア(Cartgraphia)棚もあります。
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【リブロ池袋本店】
住所:〒171-8569 東京都豊島区南池袋1-28-1
西武池袋本店 書籍館・別館
TEL:03-5949-2910
営業時間:10:00〜 22:00
URL:http://www.libro.jp/shop_list/2009/07/ikebukuro-honten.php
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美術書や写真集などのビジュアル本や、書物に似合う小物が大好きな辻山さん。「じつはこうした書棚が一番好きです」とおっしゃっていました。
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住所:〒171-8569 東京都豊島区南池袋1-28-1
西武池袋本店 書籍館・別館
TEL:03-5949-2910
営業時間:10:00〜 22:00
URL:http://www.libro.jp/shop_list/2009/07/ikebukuro-honten.php
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次回も楽しみにお待ちください。
(K)