2013年1月8日火曜日

年のはじめにおすすめの海外文学──トンドゥプジャ著『ここにも激しく躍動する生きた心臓がある』(チベット文学研究会編訳)


本書は、チベット現代文学の祖といわれるトンドゥプジャ(1953-85)の代表的な小説を集めた作品集です。彼の本が日本で出版されるのは、これがはじめてです。つまり、チベット語で書かれたチベット現代文学が、日本ではじめて翻訳されたのです。

著者:トンドゥプジャ
編訳:チベット文学研究会
編集:岡田林太郎
装丁:水橋真奈美
勉誠出版 2012年11月20日発行
本体3600円・四六判・上製・480頁

『ここにも激しく躍動する生きた心臓がある』は、わずか32年でみずから人生に幕を閉じた伝説の作家トンドゥプジャが、チベットの人びとの喜びや哀しみを丹念に描いた作品群です。これらの作品のひとつひとつには、トンドゥプジャの激しい情熱や瑞々しい創造の気概が、満ち溢れています。
チベットの人びとにとって、詩は大変身近な存在だと言われます。本書の訳者のひとりである本学の星泉先生は、チベットに赴くとよく即興で詩を交わし合っている若者たちを見ることが多く、そのたびに驚嘆させられる、と言います。詩をこよなく愛するチベットの人びとに高い人気を誇る詩人・小説家、それがトンドゥプジャです。

この本には彼の主要作品が収められているだけでなく、その作品世界を理解するための手助けとなる詳細な解説や彼の伝記も付されています。
本書をきっかけに、日本においてはいまだ未知の存在であるチベットの現代文学に、触れてみてはいかがでしょうか?

■目次:
〈作品〉
ペンツォ
ドゥクツォ
語り部
頑固爺さん
ドンタクタン
化身
霜にうたれた花
悲しみ
青春の滝
恩知らずの嫁
骨肉の情
細い道
ツルティム・ジャンツォ
ここにも激しく躍動する生きた心臓がある
愛の高波

〈解説〉
作品解説
訳者解説──トンドゥプジャとチベット現代文学

〈付録〉
トンドゥプジャの生涯(ペマブム著)
トンドゥプジャ作品とチベットのことわざ
チベット文学の読書案内
アムド地図
トンドゥプジャ年譜
訳者あとがき

■著者紹介:
トンドゥプジャ
1953年、東北チベットのアムド地方(青海省黄南チベット族自治州チェンザ県)に生まれる。ラジオ局勤務、教職を経て、1981年、処女作『曙光』を青海人民出版社より出版。仏教文化伝統の縛りが極めて強かったチベット文学に斬新な口語的表現を導入して、男女の感情の機微や普通の人々の心のうつろいを描き、チベット文学界に新風を巻き起こした。とりわけ中国という新体制下の社会を写実的に描いた小説をチベット語で書いた最初の作家である。1985年、32歳で自殺。死後四半世紀がすぎた今なおその存在感は薄れることなく、チベット現代文学の祖として崇められている。1997年には『トンドゥプジャ著作集』(全6巻)が出版された。

■編訳者紹介:
チベット文学研究会
チベットの現代文学を愛好するメンバーによって結成。2004年頃から翻訳活動を開始。2008年からは雑誌『火鍋子』にて毎号チベット現代文学の作品を翻訳・紹介している。

星泉(ほし・いずみ)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授。著書に『現代チベット語動詞辞典(ラサ方言)』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)など。チベット映画の翻訳、字幕監修なども手がける。2006年に第2回日本学術振興会賞および第2回日本学士院学術奨励賞を受賞。

大川謙作(おおかわ・けんさく)
東京大学大学院総合文化研究科学術研究員(東京大学東洋文化研究所)。著作に「欺瞞と外部性:チベット現代作家トンドゥプジャの精読から」、『中国における社会主義的近代化』(勉誠出版)など。2008年に第4回太田勝洪記念中国学術研究賞を受賞。

海老原志穂(えびはら・しほ)
日本学術振興会特別研究員(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)。著書に『アムド・チベット語の発音と会話』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)、「トゥンドゥプゲとアムド地方のことわざ」(『火鍋子』)など。

三浦順子(みうら・じゅんこ)
チベット関係の翻訳に長年携わる。訳書に『ダライ・ラマ 宗教を語る』(春秋社)、『チベット政治史』シャカッパ(亜細亜大学アジア文化研究所)、『チベットの娘』R・D・タリン(中央公論新社)、『ダライ・ラマ 宗教を越えて』(サンガ)など。

(後藤亨真)

2012年12月26日水曜日

本学多磨駅側の掲示板に出版会情報を掲示!

この掲示板は、東京外国語大学の取り組みやイベントの告知など、本学の情報を広く地元住民に発信するためのものです。「本学が出版している書物を通じて、本学をより身近に感じてほしい」との考えから、この秋、出版会の新刊・既刊情報やニュースを掲示することになりました。

まず、最新刊行物として、11月に刊行した『中国近代史』の情報を掲示しています。現在の中国を取り巻く情況と、中国近現代史の理解に大きな光をあてる、古典的歴史書の翻訳です。

トピックスコーナーは、出版会のニュースがあるたびにその都度情報を更新していきます。現在は、毎年春に発行している読書冊子「pieria(ピエリア)」のPDF版ダウンロードのお知らせです。ダウンロードは、小会のホームページからできます。

 定期刊行物として、本学アジア・アフリカ言語文化研究所編集の雑誌『FIELD+(フィールドプラス)』を紹介しています。年に2回(1月・7月)発行しています。毎回ユニークな特集で世界各地の文化や情勢を魅力的に伝えています。

 「pieria(ピエリア)」とは、学生の読書推進を目的に毎年春に発行し、無料で配布している読書冊子です。学内はもとより学外からも好評をいただいています。ご興味のある方は、出版会にお問い合わせください。

刊行書籍の背表紙が刊行順に並んでいます(左)。簡単な内容紹介文とともに書誌情報が書かれた刊行リストも掲示しています(右)。刊行リストはここからダウンロードできます。

本学にお立ち寄りの際はぜひご覧ください。

(後藤亨真)

2012年12月6日木曜日

『中国近代史』刊行


装丁:大橋泉之
東京外国語大学出版会 2012年11月15日
四六判・上製・272頁・定価:2625円(本体2500円+税)
ISBN978-4-904575-22-2 C0022

このたび佐藤公彦先生(本学大学院総合国際学研究院教授)翻訳による、蒋廷黻著『中国近代史』を刊行しました。

本書は、中華民国の外交官としてソ連大使も務めた中国外交史研究のパイオニアである蒋廷黻氏が、アヘン戦争から抗日戦争初期までの歴史を生き生きと描いた古典的歴史書(初版1938年)です。また、現在の中国をとりまく情況と中国近現代史の理解に大きな光をあてる、いわば共産党の歴史観の陰に埋もれた“もうひとつ”の中国近代史でもあります。

巻末には、約50ページにもおよぶ佐藤先生による大変力のこもった解題「中国近現代史理解のパラダイム転換のために」が収録されています。ここには、本書の魅力の一つとしてこう書かれています。
われわれが本書を読んで、きわめて面白く感じるのは、清朝中国の権力や交渉の地位にあった者たちが当時どのように考えていたのか、どのように意見を述べたのか、何を感じていたのかが、たいへん的確で絶妙の文章で表現されており、実に生き生きとしているからである。この絶妙なニュアンスの捉えは中国人ならではのことで、外国人のわれわれには到底及ばない芸当なのである。ここには血の通った人間が描かれている。
折しも日中関係が問題化しつつあるなか、中国近現代史の理解に欠かせない本書を、ぜひ手にとってご覧ください。

■目次より:
小序(一九五九年 啓明書局版)
総論
第一章 剿夷と撫夷
第二章 洪秀全と曾国藩
第三章 自強とその失敗
第四章 分割と民族の復興
解題 中国近現代史理解のパラダイム転換のために 佐藤公彦

■著者紹介:
蒋廷黻(しょう ていふつ)
1895年生まれ。中華民国の歴史学者・外交官。1912年に17歳で渡米、パーク・アカデミー(ミズーリ州)、オーベリン・カレッジ(オハイオ州)を卒業。コロンビア大学大学院で歴史を学び、哲学博士の学位を取得。帰国後の1923年、天津の南開大学歴史学部教授、1929年に清華大学教授・歴史系主任に就任し、中国の外交史を中心とする近代史研究に従事。1935年、蒋介石行政院長下の政務処長に就任、ソ連大使、国際連合の中華民国代表、駐米大使等を歴任し、1965年にニューヨークで死去。

■訳者紹介:
佐藤公彦(さとう きみひこ)
1949年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。中国近代史専攻。著書に『義和団の起源とその運動──中国民衆ナショナリズムの誕生』(研文出版、1999年)、『「氷点」事件と歴史教科書論争──日本人学者が読み解く中国の歴史論争』(日本僑報社、2007年)、『清末のキリスト教と国際関係──太平天国から義和団・露清戦争、国民革命へ』(汲古書院、2010年)など。訳書にピーター・バーク『歴史学と社会理論 第二版』(慶應義塾大学出版会、2009年)、ジョナサン・D・スペンス『神の子 洪秀全──その太平天国の建設と滅亡』(同、2011年)などがある。

2012年11月22日木曜日

本学研究講義棟1階ガレリア展示スペースにて「ジョン・ケージ」展を開催中!



現在、本学の研究講義棟1階のガレリア展示スペースで、「ジョン・ケージ展 沈黙という名の書物」(企画:小川茉侑・安土紗生・今泉瑠衣子[以上今福ゼミ]・後藤亨真[本学出版会]、協力/資料提供:今福龍太先生)を開催しています。ジョン・ケージ(1912-92)は、アメリカの前衛的な音楽家であり、ユーモラスなキノコ研究家でもあります。そのジョン・ケージ生誕100年を記念して、本学の今福先生からケージの『SILENCE』初版版と50周年記念版、そして『M』や『X』など代表的な著作を多数お借りして展示しています。また、ケージに多大な影響を与えた19世紀の哲学者、詩人、ナチュラリストでもあったヘンリー・デイヴィッド・ソローの200万語にもおよぶ長大な日記が収められた貴重な書物も展示しています(展示書物は下記のリストをご参照ください)。ショーケースの右端にはケージの音楽が聴けるヘッドフォンも設置しています。

これらの展示物のあいだを繋ぐようにバランスよく配置されているプレートには、今福先生がジョン・ケージについて書いたテキスト(雑誌「考える人」No.41所収)の引用が印字されています。展示されている書物を見ながら、プレートに書かれたテキストを読むことによって、音楽家に留まらなかったジョン・ケージの思想家としての一面が、鮮明に見えはじめてきます。

12月下旬まで開催を予定していますので、まだご覧になっていない方はぜひ一度お立ち寄りください。





〈「ジョン・ケージ展 沈黙という名の書物」展示書物リスト〉
ケージのテキスト
John Cage. SILENCE. Wesleyan University Press, 1961
John Cage. SILENCE. 50the Anniversary Edition. Wesleyan University Press, 2011
John Cage. M.
John Cage. X.
ジョン・ケージ『サイレンス』柿沼敏江訳、水声社、1996
ジョン・ケージ『小鳥たちのために』青山マミ訳、青土社、1982
ジョン・ケージ『ジョン・ケージ著作選』小沼純一編、ちくま学芸文庫、2009

ケージに決定的影響を与えたテキスト
Henry David Thoreau. Journal. Dover
James Joyce. Finnegans Wake.
Aldous Huxley. The Perennial Philosophy.
鈴木大拙『禅に生きる』守屋友江編訳、ちくま学芸文庫、2012

その他のテキスト
「ユリイカ 特集*ジョン・ケージ 鳴り続ける〈音〉」青土社、2012.10

※ なお、ジョン・ケージに関わる以下の書物や雑誌は、本学の附属図書館に所蔵されています。ぜひご覧ください。
John Cage : suivi d'entretiens avec Daniel Caux et Jean-Yves Bosseur / Jean-Yves Bosseur
白石美雪『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』武蔵野美術大学出版局、2009
ジョン・ケージ『ジョン・ケージ著作選』小沼純一編、ちくま学芸文庫、2009
ポール・グリフィス『ジョン・ケージの音楽』堀内宏公訳、青土社、2003
庄野進『聴取の詩学──J・ケージからそしてJ・ケージへ』勁草書房、2002
「ユリイカ 特集*ジョン・ケージ 鳴り続ける〈音〉」青土社、2012.10

(後藤亨真)

2012年11月2日金曜日

秋の夜長におすすめの海外文学──キルメン・ウリベ著『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』(金子奈美訳)


厳しい暑さだった今年の夏も、去ってみればどこか寂しいものです。ついそんな憂愁に包まれがちな秋の夜長に、前回にひきつづき海外文学をご案内します。本日は、本学の金子奈美さん(本学大学院総合国際学研究科博士課程)が翻訳した、バスク文学の旗手キルメン・ウリベの処女小説『ビルバオ-ニューオーク-ビルバオ』をご紹介します。また、キルメン・ウリベ氏が本書刊行に合わせ、11月6日(火)に東京外国語大学で講演を行います。そのご案内も合わせてお知らせします。

著者:キルメン・ウリベ
翻訳:金子奈美
装丁:緒方修一
白水社 2012年10月30日発行
本体2400円・四六判・上製・232頁

まずは、まだ日本においてはなじみの薄いバスク地方やキルメン・ウリベ氏について、本書訳者が、あとがきに過不足なくそして意欲的に綴ったテキストがありますので、その助けを借りながらご紹介します。

バスクとは、スペイン北部とフランス南西部にまたがり、ピレネー山脈の最西端からビス湾に向かって広がる領域を指し示します。またそれと同時に「バスク語の話されるくに」という意味もあります。話者が70 万人に満たないバスク語は、その数の少なさに反して特別な魅力にみち、ヨーロッパ最古の言語のひとつともされ、その起源や言語系統はいまだに解明されていません。
著者キルメン・ウリベ氏は、このヨーロッパ大陸に慎ましくもしっかりとたたずむ、歴史深い言語を母語として語る新進気鋭の作家です。

彼は、1970年、スペイン・バスク自治州ビスカイア県の港町オンダロアに代々続く漁師の家で生まれました。高校までを過ごし感性を育んだこのオンダロアは、バスクでもっとも大きな都市ビルバオから車で一時間ほどのところにあるビスケー湾をのぞむ人口九千人弱の漁師の町です。
高校卒業後、ビルバオとビトリアにある大学で、バスク文学を学び、北イタリアにあるトレント大学で比較文学の修士号を取得します。バスクに戻ったあとは、新聞のコラムやテレビシナリオの執筆、翻訳などといった仕事にかかわりながら、映像の制作や詩集の執筆に携わります。

2001年に処女詩集『しばらくのあいだ私の手を握っていて』を上梓し、これがバスク文学における「静かな革命」と評され、スペイン批評家賞(バスク語詩部門)を獲得します。2003年には、詩の朗読と音楽と映像を組み合わせたCDブック『古すぎるし、小さすぎるかもしれないけれど』を刊行します。これらの詩集の国際的な反響をきっかけに、ニューヨーク、ベルリン、台北、マンチェスター、ボルドー、バルセロナ、アイルランドなどのポエトリー・フェスティバルに参加し、朗読会や講演を精力的に行いました。

そして2008年に、初めての小説となる『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』を出版し、翌年のスペイン国民小説賞に輝きます。これが大きな話題となり、スペイン国内の他の言語(スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語)やポルトガル語、フランス語にも翻訳され、すでに英語、ロシア語、ブルガリア語、グルジア語、アルバニア語での刊行も決まっているようです。

本書には、世界各地を旅し著者が経験した日常の風景と、これまで関わりのあった人々との記憶が、フィクションともノンフィクションともとれる筆致で瑞々しく描かれています。バスク語というフィルターを通して私たちに届けられるこれらの日常や記憶のなんと魅力的なことか! この本を手にとり、ページをめくり、テキストの流れに身をまかせれば、読む者はいつしかキルメン・ウリベの伴走者となって、自然に彼との旅路へ誘われていくことでしょう。

この作家は、世界中の講演や詩の朗読会にも積極的に参加する瞬発力と行動力とを持ち合わせ、訪れた地の聴衆を惹きつける語りの名手でもあるようです。そのキルメン・ウリベ氏が、来週11月6日(火)に東京外国語大学で講演を行います。バスク語での語りや朗読を日本で聴ける経験はそうありません。ましてやそれをキルメン・ウリベ氏本人から聴ける機会はまたとないでしょう。ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。以下が講演の詳細です。

「バスク語から世界へ――作家キルメン・ウリベを迎えて」
日時:2012年11月6日(火)18:00〜19:45
会場:東京外国語大学 講義棟115教室
言語:日本語、スペイン語、バスク語(通訳付き)
※入場自由
構成(予定):
第一部 キルメン・ウリベ氏講演(バスク語による朗読も交えて)
第二部 鼎談
・キルメン・ウリベ
・今福龍太(本学総合国際学研究院教授)
・金子奈美(『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』翻訳者、本学大学院博士後期課程)
*詳しくはこちら。

■ 本書帯文:
来るべき小説のために、キルメン・ウリベは心の窓を開け放つ。バスクの言葉と懐かしい人々の声が潮風とともに流れ込んだ瞬間、ひとつの世界が立ち上がるだろう。過去における未来を受け止めた、彼自身の現在のなかで。(堀江敏幸)

■著者紹介:
キルメン・ウリベ(Kirmen Uribe)
1970年、スペイン・バスク自治州ビスカイア県の港町オンダロアに生まれる。大学でバスク文学を学んだのち、北イタリアのトレント大学で比較文学の修士号を取得。2001年に処女詩集Bitartean beldu eskutik(『しばらくのあいだ私の手を握っていて』)を出版。バスク語詩における「静かな革命」と評され、スペイン批評家賞を受賞、英語版は米国ペンクラブの翻訳賞最終候補になる。世界各地のポエトリー・フェスティバルに参加し、朗読会や講演を精力的に行う。08年、初めての小説となる本書を発表し、スペイン国民小説賞を受賞、大きな話題を呼ぶ。スペイン国内の他の言語(スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語)のほか、世界8カ国での翻訳刊行が進んでいる。

■訳者紹介:
金子奈美(かねこ・なみ)
1984年、秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業。同大学院修士課程修了。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士課程在籍。専門は、バスク地方および スペイン語圏の現代文学。

(後藤亨真)


2012年10月26日金曜日

秋の夜長におすすめの海外文学──アントニオ・タブッキ著『時は老いをいそぐ』(和田忠彦訳)


厳しい暑さにあきあきした夏もようやく終わり、夜半になると冷え込む季節がやってきました。そんな秋の夜長に、海外文学をゆっくり読んでみてはいかがでしょうか? 本日は、イタロ・カルヴィーノ、ウンベルト・エーコとならんで現代イタリアを代表する作家アントニオ・タブッキの晩年の作品『時は老いをいそぐ』をご紹介します。

著者:アントニオ・タブッキ
翻訳:和田忠彦
編集:島田和俊
装丁:名久井直子
河出書房新社  2012年2月28日
本体2200円・四六判・上製・224頁

タブッキは、今年の3月25日にリスボンで亡くなりました。この訃報に、世界中が彼の死を悼みました。日本でも「ユリイカ」(青土社、2012年6月号)で追悼号が編まれ、本学の和田忠彦先生が、タブッキの未翻訳作品を多数訳しています。また、タブッキ文学をこよなく愛する作家の堀江敏幸さんと和田先生との対談も掲載されています。

さて、この『時は老いをいそぐ』は、タブッキが2001年以来久しぶりに刊行した9つの短編からなる小説集です。和田先生の翻訳により、今年2月に河出書房新社から刊行されました。

本書の巻頭には、ギリシアの哲学者クリティアスのものとされる「影を追いかければ、時は老いをいそぐ」というエピグラフが、なぞかけのように配されています。このエピグラフが指し示すように、本書の読者は、時代や国や背景が異なるさまざまな登場人物の影のような郷愁を追いつづけます。それらの郷愁の舞台は、東ヨーロッパを中心とした近現代です。21世紀の日本に生きる私たちにとっては、かならずしも近しい存在ではなく、ましてやその郷愁には、暖かみがあり包み込んでくれるようなもの、といったステレオタイプなイメージもありません。ここで語られる郷愁は、弾圧であり、監視であり、侵略であり、嘘や妄想なのです。けれども、この本を読むことに不安を感じたり、敬遠したりする必要はありません。なぜなら、タブッキが『レクイエム』のなかで「文学がなすべきこととはまさしく「不安にすること」だとは思いませんか?」と語りかけたように、そもそも文学とは気持ちの良いものばかりではなく、私たちを不安にさせ、危険を感じさせ、面倒なことへと導くものでもあるからなのです。

「哲学は真理だけを相手にしているようにみえて、もしかしたら空想ばかり告げているのかもしれなくて、文学は空想にかまけてばかりいるようにみえて、もしかしたら真理を告げているのかもしれない」。これはタブッキの著書『他人まかせの自伝』(和田忠彦・花本知子訳、岩波書店)の訳者あとがきのなかで、タブッキがよく口にする物言いとして紹介されている言葉です。
タブッキの集大成ともいえる晩年の作品が、過酷な体験や苛烈な感情を描いた郷愁でした。そして彼自身、そうした文学の虚構性に絶対的な信頼をおいていて、そこにこそ真理はあるのではないか、とさえ言いました。
タブッキは、こうしたさまざまな「郷愁」に耳を澄ませ、静かなタッチで描くことによって、本質的な「時間」とは何かをここで問うているのかもしれません。

9つの物語に流れる特異な「郷愁」や「時間」のなかを漂いながら、秋の夜長に真理の探求へと誘われてみてはいかがでしょうか? 

■ 目次:
円
ポタ、ポト、ポッタン、ポットン
亡者を食卓に
将軍たちの再会
風に恋して
フェスティヴァル
雲
ブカレストは昔のまま
いきちがい
謝辞
時の感情を書くことをめぐって(和田忠彦)

■著者紹介:
アントニオ・タブッキ
1943年イタリア・ピサ生まれ。イタリア語・ポルトガル語で小説や戯曲を執筆する現代イタリアを代表する作家。75年長編『イタリア広場』でデビュー。おもな小説に『逆さまゲーム』(81)、『島とクジラと女をめぐる断片』(83)、『インド夜想曲』(84)、『遠い水平線』(86)、『レクイエム』(91)、『夢のなかの夢』(92)、『供述によるとペレイラは……』(94、ヴィアレッジョ賞受賞)など、エッセイに『他人まかせの自伝──あとづけの詩学』(2002)などがある。2012年3月25日、リスボンにて亡くなった。

■訳者紹介:
和田忠彦(わだ・ただひこ)
1952年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。同大学副学長。専攻はイタリア近現代文学・文化芸術論。著書に『ヴェネツィア 水の夢』(筑摩書房)、『声、意味ではなく──わたしの翻訳論』(平凡社)、『ファシズム、そして』(水声社)など。おもな訳書に、A・タブッキ『他人まかせの自伝』(岩波書店)、『夢のなかの夢』(青土社)、『フェルナンド・ペソア最後の三日間』(青土社)、U・エーコ『カントとカモノハシ』(岩波書店)、『ウンベルト・エーコの文体練習』(新潮社)、I・カルヴィーノ『魔法の庭』(筑摩書房)、『むずかしい愛』(岩波書店)、『パロマー』(岩波書店)、『アメリカ講義』(岩波書店)など。

(後藤亨真)

2012年7月10日火曜日

マレーシア・プトラ大学出版会の関係者らご一行が本学出版会を訪れました


7月3日(火)、マレーシア・プトラ大学(Universiti Putra Malaysia)出版会、マレーシア・イスラーム科学大学(Universiti Sains Islam Malaysia)出版部、マレーシア翻訳・図書研究所(Institut Terjemahan & Buku Malaysia)、言語図書院(Dewan Bahasa dan Pustaka)の代表団ら7名が、本学出版会を訪れ、岩崎稔編集長、竹中龍太副編集長と懇談しました。


マレーシア・プトラ大学出版会の関係者らは、7月5日(木)から8日(日)まで開催の「東京国際ブックフェア」に合わせて来日されました。ご一行は、本学出版会への訪問も強く希望され、本学のファリダ・モハメド先生(マレー語教育/特定外国語教員)、左右田直規先生(マレーシア政治社会史/准教授)、野元裕樹先生(マレー語学/専任講師)のご尽力によってこのたびの会合が実現しました。


本学出版会の刊行書籍、また出版会の成り立ちや仕組みにも大変興味を示され、将来的な協力関係の可能性などについても活発な意見交換がなされました。