今回から「書肆探訪」がスタートします。外語大出版会のKが首都圏を中心に全国各地の書店に営業かたがたお邪魔し、書店員の方々のお話しをうかがいます。書店の特色、書棚に置かれている本やそのエピソードについて、写真を交えながら毎月レポートしていきます。
第1回目は長野県松本市にある「髙美書店(たかみしょてん)」です。「髙美書店」の歴史はとても古く『江戸の読書熱』(鈴木俊幸著・平凡社)には、「信州松本の書林慶林堂髙美屋は、寛政九年(一七九七)の創業、代々書籍商を続け、二百年を過ぎた現在も創業時とほぼ同所で「髙美書店」を営んでいる」とあります。創業者の名は、髙美屋甚左衛門(たかみや・じんざえもん)。甚左衛門が創業する以前にも松本では書籍が流通していたようですが、かれほど長期間にわたって書籍を中心とした商売を続けた人間はいなかったようです。当時は書籍だけでなく紙、短冊、筆、墨、硯など文具全般の販売にもかかわり、信州松本にとって文化拠点のひとつであったと考えられます。長野県は、岩波書店の岩波茂雄、みすず書房の小尾俊人、筑摩書房の古田晃をはじめとした多くの出版人を生んでいます。何を隠そう小会スタッフのRの出身地でもあります。出版人を数多く輩出し、書物文化が根付いていった背景には「髙美書店」のような存在があったことは想像に難くありません。
それでは「髙美書店」の写真を交えながらご紹介します。
「髙美書店」の入口です。10年ほど前にこのあたり一帯は区画整理され、それにともない「髙美書店」も縮小、立て替えを余儀なくされました。けれども「店書美髙」と書かれた看板には、いまも十分にその歴史が感じられます。
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「髙美書店」の隣には古い蔵があります。その2階がギャラリーのスペースとなっています。
屋根の中央を太い柱が貫いています。店主の髙美泰浩さんによると、この柱は蔵創建当時のものでおそらく百数十年前のものではないか、とのこと。実物の柱は写真で見るよりもかなり重厚で迫力があります。
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60坪ほどの店内を見渡し、まず最初に驚かされるのが岩波文庫、岩波現代文庫、岩波新書の充実ぶりです。書棚をよくよく見てみると品切重版未定になっていたはずのエリオットの『文芸批評論』(岩波文庫・2006年41刷)が! まだまだ掘り出し物がたくさんありそうです。その他、みすず書房、青土社、工作舎、未來社、勁草書房など人文書を数多く刊行している出版社が目につきます。しかし、残念なことに小会の本は見つからず。髙美さんにぜひ置いていただくようお願いいたしました。
「髙美書店」は出版活動もおこなっており、『一九が町にやってきた──江戸時代松本の町人文化』(鈴木俊幸著・髙美書店)が入口左手の棚にありました。その棚には他にも郷土本がたくさん並んでいます。なかでも観光客に一番人気があるのが、信州を愛する大人の月刊誌「KURA」(まちなみカントリープレス)。地方の月刊誌とは思えないほど内容が充実しています。
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人文書が売れないと言われています。それは地方都市の本屋さんではなおさらのこと。けれども「髙美書店」には多くの優れた人文書が置いてあります。それは頼もしくあると同時に、驚きでもあります。
髙美さんのおっしゃっていた言葉が印象的でした。
「近くの大型書店との差別化をはかるという意味合いもあるけど、何より良い本を売っていきたい、という思いが強いです。松本で岩波書店やみすず書房や青土社を置いているのはウチくらいでしょう。でも、最近は書棚に入れたいと思う本がだんだん少なくなってきたように感じています」。
【髙美書店】
住所: 長野県松本市中央2-2-6
電話: 0263-32-0250
営業時間:10時〜19時
定休日: 年中無休
※松本駅の近くにあるパルコの細い小道をはさんだ向かい側にあります。駅から歩いて5分ほどです。お近くをお通りの際はぜひお訪ねください。
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次回の「書肆探訪」は、11月末を予定しています。楽しみにお待ちください。
(K)