『大学のロシア語Ⅰ──基礎力養成テキスト』
著者:沼野恭子 匹田剛 前田和泉 イリーナ・ダフコワ
編集:小林丈洋
装幀・本文デザイン:小塚久美子
本文イラスト:たむらかずみ
東京外国語大学出版会 2013年3月29日
B5判 並製 275頁 定価:3360円(本体3200円+税)【CD2枚付/2色刷】
ISBN978-4-904575-25-3 C3887
『大学のアラビア語 詳解文法』
著者:八木久美子 青山弘之 イハーブ・アハマド・エベード
装幀・本文デザイン:小塚久美子
題字:イハーブ・アハマド・エベード
東京外国語大学出版会 2013年4月1日
B5判 並製 340頁 定価:3675円(本体3500円+税)【2色刷】
ISBN978-4-904575-27-7 C3087
著者:八木久美子 青山弘之 イハーブ・アハマド・エベード
装幀・本文デザイン:小塚久美子
題字:イハーブ・アハマド・エベード
東京外国語大学出版会 2013年4月1日
B5判 並製 340頁 定価:3675円(本体3500円+税)【2色刷】
ISBN978-4-904575-27-7 C3087
この春、初学者から中級・上級者までを対象としたロシア語の教科書とアラビア語の教科書が、小会から刊行されました。ともに本学のロシア語教員、アラビア語教員が書き下ろした本格的な語学書です。ロシア語、アラビア語を学びたい、あるいは教えたいという方は、ぜひご注目ください。
さて本日は、日本における語学書の歴史を塗りかえるべく、この語学書の出版のミッションに携わっていただいた著者のなかから、中心的な役割を担っていただいたロシア語の沼野恭子先生とアラビア語の八木久美子先生にそれぞれ、本書の特色や制作にあたってのエピソードなどをお聞きしてきました。
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『大学のロシア語Ⅰ』は、東外大ならではの工夫がいっぱい!
────著者の立場から、このたび刊行された『大学のロシア語Ⅰ──基礎力養成テキスト』の特色をお聞かせいただけますか?沼野先生:この教科書は、もともとⅠ巻、Ⅱ巻の2冊で構想しています。Ⅰ巻は文法篇で、Ⅱ巻(来春刊行予定)は練習問題が中心になっています。Ⅰ巻にも練習問題は入っていますが、これは学んだものを定着させるためのもので、Ⅱ巻のほうはもう少し発展的な練習問題を入れてあります。これまで外大では、文法と練習問題がそれぞれ別々の体系になっている教科書を2冊使っていたのですが、この教科書では、それを有機的に組み合わせることによって、より効率的に、より効果的に、次のレベルへと発展させられるようにしています。
この教科書のおかげで、私たち外大の教員が理想としていた勉強方法が実現しつつあります。もちろん他大学での授業や独習者の方にも使っていただける教科書となっています。文法事項もかなり詳しく説明しています。この教科書には、振り返りを促すような親切な参照項目もたくさん入っていますので、ひとりでも充分に学習できるようになっています。それから文法表、単語表も丁寧に作ったので、初級文法はこれでほとんどマスターできるのではないでしょうか。
ところどころに名詞の格の随時表もついていて、これを見れば、自分がどこまで勉強しているのかもすぐに分かるようになっています。この随時表が良かった、と感想をもらした学生もいました。
────この教科書には、ダフコワ先生がふきこんだ例文などを収めた音声CDも二枚付いていますね。
沼野先生:そうですね。独習者の方には、特にこの付録CDが助けになると思います。何度も聞いていただいて、ぜひ耳でも勉強してほしいですね。
本書のアピールポイントとしては、「語彙コントロール」という既出の単語のみで文法の解説や練習問題を作る、といったことを徹底している点でしょうか。つまり、第3課の練習問題は第3課までに習った単語のみで作る、といったことをしています。とはいえ、Ⅱ巻の長文や会話文などで自然な流れにするために既出単語以外の語句をどうしても入れなければならないこともありましたが、その場合は、欄外に註をつけてあります。
また、巻末には文法表と単語帳を配し、別冊として練習問題の解答を付しているのですが、単語帳にはロシア語連邦教育科学省が認定する「ロシア語検定試験」の基礎レベルに出てくる単語と、本書に出てくる単語をほとんど収めています。この単語帳の単語は本当によく使われるものばかりなのです。
────たいへんなご苦労があったかと思いますが、執筆・編集の過程で先生がお感じになったことなどはありますか?
沼野先生:私たちはこの教科書を作るために、何度も議論し、書き方や項目の順番など非常に細かいところまで話し合いました。すでに市販されているⅠ巻に関して言いますと、文法がご専門の匹田剛先生が文法部分の叩き台を執筆し、文学がご専門の前田和泉先生が練習問題を入れながら調整して、ダフコワ先生がネイティヴ・チェックをするというふうに進めました。私は単に旗振り役にすぎず、たいしたことはしていませんが、うまく役割分担ができたのではないかと思っています。
語学教科書の編集のプロフェッショナルである小林丈洋さんに協力してもらえたことも大きかったです。ロシア語の誤植やレイアウトなども含め、何から何まで厳しいプロの目で見ていただきました。手にとって見ていただけると分かるのですが、レイアウトもとても見やすくなっています。
さらに昨年度一年間、この教科書のパイロット版を実際の授業で使い、教員や学生の感触が得られたことがありがたかったです。これらの反応をもとに、さまざまに改善しました。これまでの教科書は、実際の教育現場で得た反応を編集に活かすことはなかなかできなかったと思います。これは、本学に出版会があったからこそ、試みることができたのだと思います。学生と教員と編集者が同じ大学のなかにいて、密接にコミュニケーションをとることができたからこそ、実現したのです。これは大学という教育現場の最前線に出版会があることの大きな利点だと思っています。
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『大学のアラビア語 詳解文法』は、日本のアラビア語教育を変える!
────著者としてこの教科書のセールスポイントをお聞かせいただけますか?八木先生:これまでにも日本語で書かれたアラビア語の教科書は何種かありましたが、その多くは、大まかに二種類に分かれていました。一つは入門書で終わっているタイプ。もう一つは教科書というよりも参考書のようなタイプ、つまり迷ったときに参照するタイプです。要するに、これまでの教科書では、アラビア語を一から学びはじめた学生を、日常的に使えるレベルにまで短期間で導くのはなかなか難しかったのです。一般読者においても、初級文法を終えた後に、次のステップに進むための教科書はありませんでした。そういった状況が長いこと続いていましたので、きっとニーズはあるだろうな、と以前から感じていました。この『大学のアラビア語 詳解文法』は、そのあたりの需要にも充分応えられていると思っています。
────他に特色はありますか?
八木先生:練習問題がとても充実しています。練習問題をこれほど豊富に載せている教科書は、これまでありませんでした。あったとしても「日本語に訳しなさい」だけです。それだけでは、英語をきちんとした教科書で学んできた多くの日本人には、少々物足りない。さまざまな手法をこらした練習問題をやっていないと、理屈では分かっていても、それを実践するときについつい忘れてしまったり、間違ったりしてしまうものです。
もうひとつ特色があります。アラビア語は正則語と口語(というか方言)の二つに分かれるのですが、正則語というと出所はどうしても『コーラン』になります。要するに、名のある文法書を読むとどうしても例文が古くて固い。もちろん文法の説明にはそれで充分なのです。でも、教科書に書かれている例文を憶えながら、すぐに使える語彙を増やしていった方が効率がいいのですよ。そういう点を配慮して、文法の説明のときに使う例文や、ちょっとした表現も、できるだけすぐに使えるよう日常に根ざした例文を載せています。
────アラビア語を学ぼうとする学生や一般読者のニーズはどの程度あるのでしょう?
八木先生:これまではそれほど大きな市場ではなかったと思います。入門程度を少しやってみようか、という人はたくさんいたと思うのですが、そのレベルを超えて学ぼうとする学生は、本学と大阪外国語大学(現大阪大学)にしかいなかったと思います。けれどもいまはいろんな大学でアラビア語を教えていますし、全国では驚くほどの数の学生が勉強しています。アラビア語を専門に教えている大学はあいかわらず多くはないですが、歴史の分野であれ、思想の分野であれ、宗教の分野であれ、しっかりとアラビア語を読める学生は本当に多くなっています。
先日、慶應義塾大学のイスラーム法をご専門とする先生にお話をうかがったところ、すべての学年を合わせると100人くらいはアラビア語を勉強していて、なかには中級以上のレベルのアラビア語を操れる学生もいる、と聞きました。アラビア語が必修でもなんでもないのですが、そういった学生も他大学にはたくさんいるのです。
────やはりニーズは高まっているようですね。このレベルの本格的な教科書は、やはり本学にしかできなかったのでしょうか?
八木先生:他の大学にもアラビア語の教科書を作れる教員はいます。けれども、これくらい質の高い教科書を作るには一人ではとうてい無理です。何人かのチームを組まなければなりません。そのチームを組める大学となると、やはり本学しかないでしょう。おかげさまで『詳解文法』は他大学の教員からもかなり評価していただいています。
────執筆・編集の過程でご苦労されたこと、あるいは印象に残ったことはありますか?
八木先生:じつはチームを組むことによって、新しい発見もたくさんもあったのです。これまではそれぞれの教員が独自の方法で教えていたところもあったのですが、この教科書を作るプロセスのなかで、各教員の教授法を共有することができました。「なるほど、そう教えるとたしかにいいなぁ」といった感じで、お互い感心しあっていました(笑)。チームを組んで作ることがなければ、こういった発見は絶対にありませんでしたし、これは日本のアラビア語教育にとって、とても意義深いことだったと思います。
────独習者の方にもさまざまに配慮されているようですね。
八木先生:はい、その一つとして、非常に便利な単語帳を巻末に付けました。じつはこの単語帳の並べ方はアラビア語辞書のスタンダードな並べ方ではないのです。これまでの辞書の並べ方はある程度習熟した人には便利なのですが、初心者の方には非常に難しい。語根順になっていて、ある程度アラビア語の文法を理解していないと引けないような仕組みになっているのです。そこを、勉強しはじめたばかりの方でも活用できるよう、つづりのアルファベット順に並べています。
文法だけでなく、より実践的な能力を身につけたい方は、発音について学べる『発音教室』(DVD付)、作文や会話について学べる『表現実践』なども今後刊行しますので、こちらもぜひ楽しみにお待ちください。
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■『大学のロシア語Ⅰ』著者紹介:
沼野恭子(ぬまの きょうこ)
東京外国語大学総合国際学研究院教授。ロシア文学・ロシア文化・比較文学専攻。著書に『夢のありか──「未来の後」のロシア文学』(作品社、2007)など、訳書にリュドミラ・ウリツカヤ『女が嘘をつくとき』(新潮社、2012)などがある。
匹田 剛(ひきた ごう)
東京外国語大学総合国際学研究院准教授。ロシア語学専攻。論文に「ロシア語における主語・述語の一致をめぐって」(『北海道言語文化研究』第8号、 2010)などがある。
前田和泉(まえだ いずみ)
東京外国語大学総合国際学研究院准教授。ロシア文学、20世紀ロシア詩専攻。著書に『マリーナ・ツヴェターエワ』(未知谷、2006)、訳書にアルセーニイ・タルコフスキー詩集『白い、白い日』(ECRIT、2011)などがある。
イリーナ・ダフコワ
前東京外国語大学客員准教授。会話文の統語論、語用論専攻。
■『大学のアラビア語 詳解文法』著者紹介:
八木久美子(やぎ くみこ)
東京外国語大学総合国際学研究院教授。近代イスラム、宗教学専攻。著書に『グローバル化とイスラム──エジプトの「俗人」説教師たち』(世界思想社、 2011)など、訳書に『エドワード・サイード──対話は続く』(上村忠男、粟屋利江との共訳、みすず書房、2009)などがある。
青山弘之(あおやま ひろゆき)
東京外国語大学総合国際学研究院教授。専門は現代東アラブ政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア──歴史と政治構造から読み解く』(岩波書店、 2012)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春(シリア革命2011)顛末記」を運営。
イハーブ・アハマド・エベード
カイロ大学文学部日本語日本文学科助講師。2011年より東京外国語大学世界言語社会教育センター外国人主任教員をつとめる。編著書に『パスポート日本語 アラビア語辞典』(共著、白水社、2004)などがある。
(後藤亨真)