2013年1月8日火曜日

年のはじめにおすすめの海外文学──トンドゥプジャ著『ここにも激しく躍動する生きた心臓がある』(チベット文学研究会編訳)


本書は、チベット現代文学の祖といわれるトンドゥプジャ(1953-85)の代表的な小説を集めた作品集です。彼の本が日本で出版されるのは、これがはじめてです。つまり、チベット語で書かれたチベット現代文学が、日本ではじめて翻訳されたのです。

著者:トンドゥプジャ
編訳:チベット文学研究会
編集:岡田林太郎
装丁:水橋真奈美
勉誠出版 2012年11月20日発行
本体3600円・四六判・上製・480頁

『ここにも激しく躍動する生きた心臓がある』は、わずか32年でみずから人生に幕を閉じた伝説の作家トンドゥプジャが、チベットの人びとの喜びや哀しみを丹念に描いた作品群です。これらの作品のひとつひとつには、トンドゥプジャの激しい情熱や瑞々しい創造の気概が、満ち溢れています。
チベットの人びとにとって、詩は大変身近な存在だと言われます。本書の訳者のひとりである本学の星泉先生は、チベットに赴くとよく即興で詩を交わし合っている若者たちを見ることが多く、そのたびに驚嘆させられる、と言います。詩をこよなく愛するチベットの人びとに高い人気を誇る詩人・小説家、それがトンドゥプジャです。

この本には彼の主要作品が収められているだけでなく、その作品世界を理解するための手助けとなる詳細な解説や彼の伝記も付されています。
本書をきっかけに、日本においてはいまだ未知の存在であるチベットの現代文学に、触れてみてはいかがでしょうか?

■目次:
〈作品〉
ペンツォ
ドゥクツォ
語り部
頑固爺さん
ドンタクタン
化身
霜にうたれた花
悲しみ
青春の滝
恩知らずの嫁
骨肉の情
細い道
ツルティム・ジャンツォ
ここにも激しく躍動する生きた心臓がある
愛の高波

〈解説〉
作品解説
訳者解説──トンドゥプジャとチベット現代文学

〈付録〉
トンドゥプジャの生涯(ペマブム著)
トンドゥプジャ作品とチベットのことわざ
チベット文学の読書案内
アムド地図
トンドゥプジャ年譜
訳者あとがき

■著者紹介:
トンドゥプジャ
1953年、東北チベットのアムド地方(青海省黄南チベット族自治州チェンザ県)に生まれる。ラジオ局勤務、教職を経て、1981年、処女作『曙光』を青海人民出版社より出版。仏教文化伝統の縛りが極めて強かったチベット文学に斬新な口語的表現を導入して、男女の感情の機微や普通の人々の心のうつろいを描き、チベット文学界に新風を巻き起こした。とりわけ中国という新体制下の社会を写実的に描いた小説をチベット語で書いた最初の作家である。1985年、32歳で自殺。死後四半世紀がすぎた今なおその存在感は薄れることなく、チベット現代文学の祖として崇められている。1997年には『トンドゥプジャ著作集』(全6巻)が出版された。

■編訳者紹介:
チベット文学研究会
チベットの現代文学を愛好するメンバーによって結成。2004年頃から翻訳活動を開始。2008年からは雑誌『火鍋子』にて毎号チベット現代文学の作品を翻訳・紹介している。

星泉(ほし・いずみ)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授。著書に『現代チベット語動詞辞典(ラサ方言)』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)など。チベット映画の翻訳、字幕監修なども手がける。2006年に第2回日本学術振興会賞および第2回日本学士院学術奨励賞を受賞。

大川謙作(おおかわ・けんさく)
東京大学大学院総合文化研究科学術研究員(東京大学東洋文化研究所)。著作に「欺瞞と外部性:チベット現代作家トンドゥプジャの精読から」、『中国における社会主義的近代化』(勉誠出版)など。2008年に第4回太田勝洪記念中国学術研究賞を受賞。

海老原志穂(えびはら・しほ)
日本学術振興会特別研究員(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)。著書に『アムド・チベット語の発音と会話』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)、「トゥンドゥプゲとアムド地方のことわざ」(『火鍋子』)など。

三浦順子(みうら・じゅんこ)
チベット関係の翻訳に長年携わる。訳書に『ダライ・ラマ 宗教を語る』(春秋社)、『チベット政治史』シャカッパ(亜細亜大学アジア文化研究所)、『チベットの娘』R・D・タリン(中央公論新社)、『ダライ・ラマ 宗教を越えて』(サンガ)など。

(後藤亨真)