2012年11月22日木曜日

本学研究講義棟1階ガレリア展示スペースにて「ジョン・ケージ」展を開催中!



現在、本学の研究講義棟1階のガレリア展示スペースで、「ジョン・ケージ展 沈黙という名の書物」(企画:小川茉侑・安土紗生・今泉瑠衣子[以上今福ゼミ]・後藤亨真[本学出版会]、協力/資料提供:今福龍太先生)を開催しています。ジョン・ケージ(1912-92)は、アメリカの前衛的な音楽家であり、ユーモラスなキノコ研究家でもあります。そのジョン・ケージ生誕100年を記念して、本学の今福先生からケージの『SILENCE』初版版と50周年記念版、そして『M』や『X』など代表的な著作を多数お借りして展示しています。また、ケージに多大な影響を与えた19世紀の哲学者、詩人、ナチュラリストでもあったヘンリー・デイヴィッド・ソローの200万語にもおよぶ長大な日記が収められた貴重な書物も展示しています(展示書物は下記のリストをご参照ください)。ショーケースの右端にはケージの音楽が聴けるヘッドフォンも設置しています。

これらの展示物のあいだを繋ぐようにバランスよく配置されているプレートには、今福先生がジョン・ケージについて書いたテキスト(雑誌「考える人」No.41所収)の引用が印字されています。展示されている書物を見ながら、プレートに書かれたテキストを読むことによって、音楽家に留まらなかったジョン・ケージの思想家としての一面が、鮮明に見えはじめてきます。

12月下旬まで開催を予定していますので、まだご覧になっていない方はぜひ一度お立ち寄りください。





〈「ジョン・ケージ展 沈黙という名の書物」展示書物リスト〉
ケージのテキスト
John Cage. SILENCE. Wesleyan University Press, 1961
John Cage. SILENCE. 50the Anniversary Edition. Wesleyan University Press, 2011
John Cage. .
John Cage. .
ジョン・ケージ『サイレンス』柿沼敏江訳、水声社、1996
ジョン・ケージ『小鳥たちのために』青山マミ訳、青土社、1982
ジョン・ケージ『ジョン・ケージ著作選』小沼純一編、ちくま学芸文庫、2009

ケージに決定的影響を与えたテキスト
Henry David Thoreau. Journal. Dover
James Joyce. Finnegans Wake.
Aldous Huxley. The Perennial Philosophy.
鈴木大拙『禅に生きる』守屋友江編訳、ちくま学芸文庫、2012

その他のテキスト
「ユリイカ 特集*ジョン・ケージ 鳴り続ける〈音〉」青土社、2012.10

※ なお、ジョン・ケージに関わる以下の書物や雑誌は、本学の附属図書館に所蔵されています。ぜひご覧ください。
John Cage : suivi d'entretiens avec Daniel Caux et Jean-Yves Bosseur / Jean-Yves Bosseur
白石美雪『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』武蔵野美術大学出版局、2009
ジョン・ケージ『ジョン・ケージ著作選』小沼純一編、ちくま学芸文庫、2009
ポール・グリフィス『ジョン・ケージの音楽』堀内宏公訳、青土社、2003
庄野進『聴取の詩学──J・ケージからそしてJ・ケージへ』勁草書房、2002
「ユリイカ 特集*ジョン・ケージ 鳴り続ける〈音〉」青土社、2012.10

(後藤亨真)

2012年11月2日金曜日

秋の夜長におすすめの海外文学──キルメン・ウリベ著『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』(金子奈美訳)


厳しい暑さだった今年の夏も、去ってみればどこか寂しいものです。ついそんな憂愁に包まれがちな秋の夜長に、前回にひきつづき海外文学をご案内します。本日は、本学の金子奈美さん(本学大学院総合国際学研究科博士課程)が翻訳した、バスク文学の旗手キルメン・ウリベの処女小説『ビルバオ-ニューオーク-ビルバオ』をご紹介します。また、キルメン・ウリベ氏が本書刊行に合わせ、11月6日(火)に東京外国語大学で講演を行います。そのご案内も合わせてお知らせします。

著者:キルメン・ウリベ
翻訳:金子奈美
装丁:緒方修一
白水社 2012年10月30日発行
本体2400円・四六判・上製・232頁

まずは、まだ日本においてはなじみの薄いバスク地方やキルメン・ウリベ氏について、本書訳者が、あとがきに過不足なくそして意欲的に綴ったテキストがありますので、その助けを借りながらご紹介します。

バスクとは、スペイン北部とフランス南西部にまたがり、ピレネー山脈の最西端からビス湾に向かって広がる領域を指し示します。またそれと同時に「バスク語の話されるくに」という意味もあります。話者が70 万人に満たないバスク語は、その数の少なさに反して特別な魅力にみち、ヨーロッパ最古の言語のひとつともされ、その起源や言語系統はいまだに解明されていません。
著者キルメン・ウリベ氏は、このヨーロッパ大陸に慎ましくもしっかりとたたずむ、歴史深い言語を母語として語る新進気鋭の作家です。

彼は、1970年、スペイン・バスク自治州ビスカイア県の港町オンダロアに代々続く漁師の家で生まれました。高校までを過ごし感性を育んだこのオンダロアは、バスクでもっとも大きな都市ビルバオから車で一時間ほどのところにあるビスケー湾をのぞむ人口九千人弱の漁師の町です。
高校卒業後、ビルバオとビトリアにある大学で、バスク文学を学び、北イタリアにあるトレント大学で比較文学の修士号を取得します。バスクに戻ったあとは、新聞のコラムやテレビシナリオの執筆、翻訳などといった仕事にかかわりながら、映像の制作や詩集の執筆に携わります。

2001年に処女詩集『しばらくのあいだ私の手を握っていて』を上梓し、これがバスク文学における「静かな革命」と評され、スペイン批評家賞(バスク語詩部門)を獲得します。2003年には、詩の朗読と音楽と映像を組み合わせたCDブック『古すぎるし、小さすぎるかもしれないけれど』を刊行します。これらの詩集の国際的な反響をきっかけに、ニューヨーク、ベルリン、台北、マンチェスター、ボルドー、バルセロナ、アイルランドなどのポエトリー・フェスティバルに参加し、朗読会や講演を精力的に行いました。

そして2008年に、初めての小説となる『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』を出版し、翌年のスペイン国民小説賞に輝きます。これが大きな話題となり、スペイン国内の他の言語(スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語)やポルトガル語、フランス語にも翻訳され、すでに英語、ロシア語、ブルガリア語、グルジア語、アルバニア語での刊行も決まっているようです。

本書には、世界各地を旅し著者が経験した日常の風景と、これまで関わりのあった人々との記憶が、フィクションともノンフィクションともとれる筆致で瑞々しく描かれています。バスク語というフィルターを通して私たちに届けられるこれらの日常や記憶のなんと魅力的なことか! この本を手にとり、ページをめくり、テキストの流れに身をまかせれば、読む者はいつしかキルメン・ウリベの伴走者となって、自然に彼との旅路へ誘われていくことでしょう。

この作家は、世界中の講演や詩の朗読会にも積極的に参加する瞬発力と行動力とを持ち合わせ、訪れた地の聴衆を惹きつける語りの名手でもあるようです。そのキルメン・ウリベ氏が、来週11月6日(火)に東京外国語大学で講演を行います。バスク語での語りや朗読を日本で聴ける経験はそうありません。ましてやそれをキルメン・ウリベ氏本人から聴ける機会はまたとないでしょう。ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。以下が講演の詳細です。

「バスク語から世界へ――作家キルメン・ウリベを迎えて」
日時:2012年11月6日(火)18:00〜19:45
会場:東京外国語大学 講義棟115教室
言語:日本語、スペイン語、バスク語(通訳付き)
※入場自由
構成(予定):
第一部 キルメン・ウリベ氏講演(バスク語による朗読も交えて)
第二部 鼎談
・キルメン・ウリベ
・今福龍太(本学総合国際学研究院教授)
・金子奈美(『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』翻訳者、本学大学院博士後期課程)
*詳しくはこちら

■ 本書帯文:
来るべき小説のために、キルメン・ウリベは心の窓を開け放つ。バスクの言葉と懐かしい人々の声が潮風とともに流れ込んだ瞬間、ひとつの世界が立ち上がるだろう。過去における未来を受け止めた、彼自身の現在のなかで。(堀江敏幸)

■著者紹介:
キルメン・ウリベ(Kirmen Uribe)
1970年、スペイン・バスク自治州ビスカイア県の港町オンダロアに生まれる。大学でバスク文学を学んだのち、北イタリアのトレント大学で比較文学の修士号を取得。2001年に処女詩集Bitartean beldu eskutik(『しばらくのあいだ私の手を握っていて』)を出版。バスク語詩における「静かな革命」と評され、スペイン批評家賞を受賞、英語版は米国ペンクラブの翻訳賞最終候補になる。世界各地のポエトリー・フェスティバルに参加し、朗読会や講演を精力的に行う。08年、初めての小説となる本書を発表し、スペイン国民小説賞を受賞、大きな話題を呼ぶ。スペイン国内の他の言語(スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語)のほか、世界8カ国での翻訳刊行が進んでいる。

■訳者紹介:
金子奈美(かねこ・なみ)
1984年、秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業。同大学院修士課程修了。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士課程在籍。専門は、バスク地方および スペイン語圏の現代文学。

(後藤亨真)