2012年5月29日火曜日

国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて」フォトレポート


5月25日(金)、本学本部管理棟2階の大会議室で、国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて──感情記憶をどのように描くか」(共催:東アジア出版人会議/「近現代世界の自画像形成に作用する《集合的記憶》の学際的研究」(岩崎稔科研)/本学出版会)が、開催されました。これは、第13回東アジア出版人会議の一環として開かれた一般公開のシンポジウムです。


会場には、一般市民、研究者、外大生を含め100名以上が集まり、シンポジウムは岩崎稔氏(本学出版会編集長)の挨拶で幕を開けました。


その後、孫歌氏(中国社会科学院文学研究所研究員)による基調講演「われわれはなぜ東アジアを語るのか」が行われました。1)東アジアと呼ばれるカテゴリー、2)中国におけるアジア論の歴史的文脈とその方向性、3)日本と韓国における東アジア論のジレンマと課題、4)東アジア論の第一線に立つ朝鮮半島と沖縄、5)分断体制論と東アジア論が直面する難題、6)東アジアの出版人たちへの提案、などについて語られました。

孫歌氏の基調講演の後、各地域からの報告として、まず日本の龍澤武氏(前平凡社取締役編集局長)は、戦後の日本がどのように「原子炉」を受け入れてきたのかを、緻密に調べあげた文献の紹介とともに語りました。

台湾の林載爵氏(聯経出版社発行者兼編集長)は、台湾史を再構築するにあたっての複雑な経験を、映像や音声を駆使しながら語りました。

韓国の韓性峰氏(東アジア出版社代表)は、韓流の構造的また歴史的認識と東アジアの大衆文化の可能性について時おりユーモアを交えながら語りました。

中国の劉蘇里氏(万聖書園図書公司取締役)は、昨今中国で頻発している“新人”と呼ばれる若者の犯罪によって、露になりつつある大国の問題について語りました。

高橋哲哉氏

丸川哲史氏

高榮蘭氏

岩崎稔氏

それぞれの出版人による報告の後には、高橋哲哉氏(龍澤氏報告の後/東大教授)、丸川哲史氏(林氏報告の後/明大教授)、高榮蘭氏(韓氏報告の後/日大准教授)、岩崎稔氏(劉氏報告の後/東外大教授)による示唆に富んだコメントもなされました。


最後に、これまでの議論を包括するかたちで、薫秀玉氏(中国編集学会副会長)、金彦鎬氏(韓国・ハンギル社社長)、林慶澤氏(韓国・全北大学校教授)、加藤敬事氏(前みすず書房社長)、大塚信一氏(前岩波書店社長)によるラウンドテーブルが行われました。


(写真・文:後藤亨真)


2012年5月17日木曜日

本学で国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて」を開催



 5月25日(金)午前10時から午後6時まで、国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて──感情記憶をどのように描くか」(共催:東アジア出版人会議/「近現代世界の自画像形成に作用する《集合的記憶》の学際的研究」(岩崎稔先生科研)/本学出版会)が、本学本部管理棟2階の大会議室で開催されます。

 プログラムは、下記のとおりです。

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国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて」
◎日時:5月25日(金)10時〜18時
◎会場:東京外国語大学本部管理棟2階 大会議室
◎アクセスマップ:http://www.tufs.ac.jp/access/tama.html
◎お問合せ:東京外国語大学出版会(042-330-5559/tufspub@tufs.ac.jp)
◎国際シンポジウム次第:
・基調講演「われわれはなぜ東アジアを語るか」
 孫歌(中国社会科学院文学研究所研究員)
・第1報告「戦後日本は「原子炉」をどのように受け入れたか」
 龍澤 武(東アジア出版人会議理事)
 コメント 高橋哲哉(東京大学教養学部教授・哲学)
・第2報告「脱植民地化──台湾史再構築の複雑な経験」
 林載爵(聯経出版発行人兼編集長)
 コメント 丸川哲史(明治大学政治経済学部教授・台湾文学・東アジア文化論)
・第3報告「韓流の構造的歴史的認識及び東アジア大衆文化の可能性」
 韓性峰(東アジア出版社社長)
 コメント 高榮蘭(日本大学文理学部准教授・日本近代文学)
・第4報告「大国の若者たちはどこに向かうか」
 劉蘇里(北京万聖書園図書有限責任公司取締役)
 コメント 岩崎稔(本学教授・哲学・政治思想)
・ラウンドテーブル
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 東アジア出版人会議は、日本の出版人である大塚信一氏(元岩波書店社長)、加藤敬事氏(元みすず書房社長)、龍澤武氏(元平凡社取締役編集局長)を発起人として、2005年に発足した非営利の任意団体です。発起人の呼びかけに、中国、台湾、香港、韓国の出版人や研究者(大学人)が応じ、2005年秋の第1回東京会議の開催から、各地域の持ち回りで半年に1回のペースで開催され、これまで東アジアに共通するテーマで活発な議論が交わされてきました。近年は東アジアの大学との連携をめざし、昨年12月には明治大学との共催で会議が行われました。

 5月25日の国際シンポジウム「東アジア文化地図の共有に向けて──感情記憶をどのように描くか」は、東アジア地域の出版人と研究者が議論を通し、未来に向けて東アジアの文化地図を描こうとする試みです。一般公開で、入場無料、お申込も不要です。興味関心のある方は、ぜひお越しください。

2012年5月2日水曜日

『東南アジアのイスラーム』刊行


装丁:桂川潤
東京外国語大学出版会 2012年4月10日
A5判・上製・414頁・定価:3780円(本体3600円+税)
ISBN978-4-904575-20-8 C0036

このたび、『ラテンアメリカにおける従属と発展』につづき、床呂郁哉先生(本学アジア・アフリカ言語文化研究所〔以下AA研〕准教授)、西井凉子先生(本学AA研教授)、福島康博先生(本学AA研研究員)編『東南アジアのイスラーム』も刊行されました。

東南アジアは、世界で最も多くのムスリム(イスラーム教徒)を抱える地域です。本書は、その東南アジアのイスラームについて、その歴史的・文化的背景から政治や経済にいたるまで総合的、かつ多角的に検討されています。また、その実情を一般の読者にも広く知っていただこうと試みられた日本では初めての本格的な論文集です。昨今、特に注目を集めている「イスラーム金融」についての論考もおさめられています。

研究者や専門家、あるいは大学院生にかぎらず、東南アジアやイスラームに関心のある一般の社会人(企業関係者、駐在員、在外公館・官公庁関係者、NGO関係者、教育関係者、その他の一般読者層)の方や学部学生の方におすすめの一冊です。

■目次より:
序文 なぜ今、「東南アジアのイスラーム」なのか?(床呂郁哉)
〈東南アジアのイスラーム〉を知るために(塩谷もも/福島康博/床呂郁哉/西井凉子)
第Ⅰ部 イスラームと知の伝達
第1章 旅して学ぶ(辰巳頼子)
第2章 東南アジアから南アラビアへの留学(新井和広)
第3章 キターブにみる東南アジア島嶼部のイスラーム受容(菅原由美)
第Ⅱ部 紛争と平和構築
第4章 フィリピンにおけるムスリム分離主義運動とイスラームの現在(床呂郁哉)
第5章 南タイの暴力事件にみるムスリム-仏教徒関係(西井凉子)
第6章 パタニの二つの顔(黒田景子)
第Ⅲ部 イスラームをめぐる法と政治
第7章 フィリピンにおけるイスラーム法制度の運用と課題(森正美)
第8章 ムスリムの再生を願うコロニアリズム(鈴木伸隆)
第9章 出版業にみる福祉正義党の「市場戦略」(見市建)
第10章 東南アジアのイスラーム裁判制度(今泉慎也)
第Ⅳ部 イスラームと社会
第11章 ニュータウンのムスリム・コミュニティ(左右田直規)
第12章 ジャワにおけるヴェール着用者の増加とその背景(塩谷もも)
第13章 ダッワの伸展とその諸相(小河久志)
第Ⅴ部 イスラームとビジネス
第14章 連携と競合(富沢寿勇)
第15章 グローバル・ハラール・マーケットへの挑戦(川端隆史)
第16章 拡大するマレーシアとインドネシアのイスラーム金融(福島康博)

■編者紹介:
床呂郁哉(ところ いくや)
1965年生まれ。東京大学大学院博士課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授。学術修士。人類学専攻。著書に『越境──スールー海域世界から』(岩波書店、1999年)。

西井凉子(にしい りょうこ)
1959年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。博士(文学)。人類学専攻。著書に『死をめぐる実践宗教──南タイのムスリム・仏教徒関係へのパースペクティブ』(世界思想社、2001年)、『社会空間の人類学──マテリアリティ・主体・モダニティ』(共編、世界思想社、2006年)、『時間の人類学──情動・自然・社会空間』(編著、世界思想社、2011年)など。

福島康博(ふくしま やすひろ)
1973年生まれ。桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員。博士(学術)。イスラーム金融論・マレーシア研究専攻。

■執筆者紹介:
飯塚正人(いいづか まさと)
1960年生まれ。東京大学大学院博士課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。文学修士。イスラーム学・中東地域研究専攻。

辰巳頼子(たつみ よりこ)
1973年生まれ。清泉女子大学文学部専任講師。博士(地域研究)。地域研究・人類学専攻。

新井和広(あらい かずひろ)
1968年生まれ。ミシガン大学近東研究学科博士課程修了。慶應義塾大学商学部准教授。Ph.D.地域研究・歴史学専攻。

菅原由美(すがはら ゆみ)
1969年生まれ。東京外国語大学大学院博士後期課程単位取得退学。大阪大学世界言語研究センター講師。学術博士。インドネシア近現代史専攻。

黒木英充(くろき ひでみつ)
1961年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。学術修士。東アラブ近代史専攻。

黒田景子(くろだ けいこ)
1957年生まれ。大谷大学大学院博士課程中退。鹿児島大学法文学部教授。文学修士。東南アジア史専攻。

森正美(もり まさみ)
1966年生まれ。筑波大学大学院博士課程単位取得満期退学。京都文教大学人間学部文化人類学科教授。文学修士。文化人類学・東南アジア(フィリピン)研究専攻。

堀井聡江(ほりい さとえ)
1968年生まれ。ケルン大学大学院博士課程修了。桜美林大学リベラルアーツ学群専任講師。Ph.D.イスラーム学専攻。

鈴木伸隆(すずき のぶたか)
1965年生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科修了。筑波大学大学院人文社会科学系准教授。博士(文学)。文化人類学・フィリピン地域研究専攻。

見市建(みいち けん)
1973年生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科博士課程修了(政治学博士)。岩手県立大学総合政策学部准教授。比較政治学・地域研究専攻。

今泉慎也(いまいずみ しんや)
1967年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所主任調査研究員。アジア法(タイ)専攻。

左右田直規(そうだ なおき)
1969年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程研究指導認定退学。東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。博士(地域研究)。東南アジア近現代史専攻。

塩谷もも(しおや もも)
1974年生まれ。東京外国語大学大学院博士課程中退。島根県立大学短期大学部講師。学術博士。人類学専攻。

小河久志(おがわ ひさし)
1975年生まれ。総合研究大学院大学博士課程単位取得退学。国立民族学博物館外来研究員/京都文教大学人間学部教務補佐。博士(文学)。人類学・タイ地域研究専攻。

富沢寿勇(とみざわ ひさお)
1954年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。静岡県立大学国際関係学部教授、副学長。博士(学術)。文化人類学専攻。

川端隆史(かわばた たかし)
1976年生まれ。東京外国語大学外国語学部マレーシア専攻卒業。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員、日本マレーシア学会運営委員。

『ラテンアメリカにおける従属と発展──グローバリゼーションの歴史社会学』刊行


装丁:大橋泉之
東京外国語大学出版会 2012年4月10日
四六判・上製・352頁・定価:2940円(本体2800円+税)
ISBN978-4-904575-19-2 C0036

この春、鈴木茂先生(本学教授)、受田宏之先生(本学教授)、宮地隆廣先生(同志社大学言語文化教育研究センター助教)の共訳で『ラテンアメリカにおける従属と発展』が刊行されました。

1995年から2002年にブラジル大統領を務め、その後のブラジル隆盛の礎を築いたカルドーゾ氏が、社会学者としてチリに亡命していた際に、歴史学者ファレット氏とともにまとめたのが、「従属論」の古典的名著として誉れ高い本書です。本書の今日的意義は、スペイン語版初版刊行(1969年)から40年以上、また欧米の主要言語への翻訳(ドイツ語版1976年、フランス語版1978年、英語版1979年)から30年以上の月日を経てもなお消えることはなく、いまもアメリカの諸大学の国際関係論コースでは盛んに用いられています。また、2009年には本書刊行40周年を記念するシンポジウムがアメリカのブラウン大学で開催され、カルドーゾ氏は本書のなかで展開している「歴史的・構造的視角」なる方法論を使い、グローバル化した現代世界における開発の問題を語りました。本書で論じられている内容が、現代においても有用な手段のひとつとなりうることを、著者自らが証明しました。

昨今の反グローバリズム・反新自由主義の思想的背景を理解する手がかりにもなる本書をぜひご一読ください。

■恒川惠市氏(東大名誉教授)の解説より:
本書は、悲観的な言説が支配的だった時代に、ブラジルを含む発展途上国の成長可能性を言い当てていたという点で、画期的な本であり、今こそ読み直されるべき書物である。さらに本書は、経済発展における国家の役割を正面からとりあげることで、市場と国家の関係についての、今日に至る論争にも一石を投じる内容を含んでいる。

■目次:
日本語版への序
ポルトガル語新版への序
初版への序
第1章 序論
第2章 発展の統合的分析
第3章 「外向きの拡大」期における基本的状況
第3章英語版補遺
第4章 移行期における発展と社会変容
第5章 ナショナリズムとポピュリズム
第6章 市場の国際化──従属の新たな特徴
結語
追記
解説 本書の今日的意義について 恒川惠市

■著者紹介:
フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ(Fernando Henrique Cardoso)
1931年生まれ。ブラジル出身の社会学者。サンパウロ大学、パリ第9大学で教鞭をとる。ブラジル南部の奴隷制・人種関係、開発理論、軍政・権威主義体制の研究に取り組む。1993〜94年に財務相として「レアル・プラン」を主導し、ブラジル経済の安定化に成功した。1995〜2002年、ブラジル大統領を務める。

エンソ・ファレット(Enzo Faletto)
1935年生まれ。チリ出身の経済学者・社会学者・歴史学者。チリ大学教授、専門は開発理論。1973年から1990年まで国連ラテンアメリカ経済委員会のコンサルタントを務める。2003年没。

■訳者紹介:
鈴木茂(すずき しげる)
1956年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程中退。現在、東京外国語大学総合国際学研究院教授。ブラジル近現代史専攻。主な著作に「「人種デモクラシーへの反逆」──アブディアス・ド・ナシメントと黒人実験劇場(TEN)」(真島一朗編『二〇世紀〈アフリカ〉の個体形成』平凡社、2011年、所収)、「多人種・多文化社会における市民権──ブラジルの黒人運動とアファーマティヴ・アクション」(立石博高ほか編『国民国家と市民』山川出版社、2009年、所収)など。訳書にジルベルト・フレイレ『大邸宅と奴隷小屋』(日本経済評論社、2005年)、ボリス・ファウスト『ブラジル史』(明石書店、2008年)などがある。

受田宏之(うけだ ひろゆき)
1968年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学(経済学博士)。現在、東京外国語大学総合国際学研究院准教授。ラテンアメリカ地域研究・開発経済学専攻。著書に『開発援助がつくる社会生活──現場からのプロジェクト診断』(共編、大学教育出版、2010年)、『貧困問題とは何であるか──「開発学」への新しい道』(共著、勁草書房、2009年)など。

宮地隆廣(みやち たかひろ)
1976年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(博士〔学術〕)。現在、同志社大学言語文化教育研究センター助教。ラテンアメリカ地域研究・政治学専攻。