2012年1月30日月曜日

『〈アラブ大変動〉を読む──民衆革命のゆくえ』 刊行記念トークイベント抄録


 昨年11月25日(金)、『〈アラブ大変動〉を読む──民衆革命のゆくえ』の編者である酒井啓子先生(東京外国語大学教授)と社会学者の吉見俊哉先生(東京大学教授)をお招きし、ジュンク堂書店新宿店で刊行記念トークイベントを開催しました。集まった聴衆は、酒井先生と吉見先生の力のこもったお話に、熱心に耳を傾けていました。以下にそのトーク内容をご紹介します。

 第一線の中東政治学者と社会学者は、このたびの民衆革命をどのように見ているのか? そもそも「アラブの春」とはいったい何だったのか? そして今後を占うキーポイントとは何なのか? それらについて考えるための手がかりが、ここにはたくさん盛り込まれています。どうぞご覧ください。

酒井啓子(さかい・けいこ)【イラク政治史、現代中東政治】
1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。東京外国語大学総合国際学研究院教授。アジア経済研究所を経て、現職。著書に『イラクは食べる』(岩波新書、2008)、『〈中東〉の考え方』(講談社現代新書、2010)ほか多数。

吉見俊哉(よしみ・しゅんや)【カルチュラル・スタディーズ】
1957年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院情報学環教授、東京大学副学長。著書に『都市のドラマトゥルギー』(弘文堂、1987/河出文庫、2008)、『天皇とアメリカ』(共著、集英社新書、2010)、『書物と映像の未来』(岩波書店 2010)、『大学とは何か』(岩波新書、2011)ほか多数。

A5判・並製・237頁・定価:1575円(本体1500円+税)
ISBN978-4-904575-17-8 C0031

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酒井啓子:このたびのアラブの民衆革命には社会学的に見ても重要な問題がたくさん盛り込まれていると思っています。だからこそ社会学者の吉見俊哉さんに、この『〈アラブ大変動〉を読む──民衆革命のゆくえ』を読んでいただき、ぜひともお話をお聞きしたいと以前から思っていました。このたびのトークイベントが実現し、とても嬉しく思っています。じつは吉見さんは、私の大学の一年先輩で、見田宗介ゼミでご一緒していました。あの当時はともに勉強し、議論し、遊んだりもした仲でした。

吉見俊哉:ゼミ時代が懐かしいですね。今日はすこし同窓会的な雰囲気もあるのですが(笑)。

類似しているアラブとアジア

吉見:さて、この『〈アラブ大変動〉を読む』を酒井さんにお送りいただきさっそく読みました。非常に面白かったです。私はアラブに関してはまったくの素人で、ほとんど知識がありませんでした。チュニジアから始まりエジプトへ、そしてその後世界各地へと革命の波が広がっていくなか、テレビやネットなどを通してさまざまな映像が流されました。しかし、それを何度見てもこのたびの革命は正直よく分からなかった。何かすごいことが起こっているということは、当然感じていました。けれども、私のような素人にはテレビの解説を聞いても十全には理解できないし、ネットの映像は断片的すぎる。その実態がいまいちつかめないままでした。

 日本に住む多くの人間にとって、北アフリカや中東はやはり遠い。それは物理的な遠さももちろんありますが、感覚的な遠さもあります。韓国や中国でしたら、日常的に情報は流れてくるし、そこで起こっている事態を常に考える機会があるので近さを感じます。けれどもアラブはこれまで非常に遠かった。

 この本を読んでまず感じたことは、そのアラブがじつは近かったということが分かったことです。アジアや日本や私たち一人ひとりが抱えている状況や問題と、アラブが抱えているものとが思いのほか近いのです。むしろ似ているとすら感じました。まずはそのことについて二点ほどお話したいと思います。

2012年1月10日火曜日

本年もよろしくお願いいたします


 新年あけましておめでとうございます。

 昨年は、東日本大震災、福島第一原発事故など大変なことが起こった年でした。昨年の3月といえば毎年4月に外大新入生向けに発行している読書冊子「pieria(ピエリア)」の編集作業のまっただなかでした。日常が壊れゆく不安のなかで編集作業に集中していたことをつい昨日のように思い起こします。東北の方々の傷を癒し、すこしでも平穏な日々を取り戻せるよう切に願っています。

 今年は、東京外国語大学にとって節目の年です。4月から「言語文化学部」と「国際社会学部」の2学部制がスタートします。大学設立当初からの理念でもあった「語学を軸としつつ、文学・思想や国際経済などを組み合わせた総合的な教育機関」としてさらなる発展をめざします。小会もこの学部改編を機に大学との相互的な関係をいっそう深め、これまで以上に充実したラインアップを実現したいと考えています。

 さて、今年も読書冊子「pieria」を4月に発行いたします。新入生はじめ、在学生、ならびに小会にお問合せをいただいた書店などでも無料配布いたします。その他の書籍も鋭意編集作業を進めております。本学ならではの企画を順次みなさまにお届けいたしますので、ご期待ください。