2011年8月30日火曜日

今福龍太著『レヴィ=ストロース 夜と音楽』刊行


 このたび本学の今福龍太先生が『レヴィ=ストロース 夜と音楽』をみすず書房から刊行しました。

著者:今福龍太
編集:鈴木英果
みすず書房 2011年7月8日
本体2800円 四六判・上製・カバー・256頁
ISBN 978-4-622-07599-8

 レヴィ=ストロース(1908-2009)は、20世紀を代表する知の巨星です。構造主義の中心人物としても知られる碩学です。彼が考え、育み、ものした著作は、そのどれもが途方もなく広く、そして深い森のようです。この鬱蒼としたマット・グロッソ(=深い森)に地図をもたずに近づくことはなかなかにやっかいです。否応なく惹きつけられるけれども、容易には分け入ることができない。そんなわれわれにとって、本書はこの上もなく魅力的な案内役となるでしょう。

 本書はこう書き出されます。

   音楽と神話は、言語という親から生まれた二人の
   姉妹に似ている。この姉妹は、生まれてすぐに別
   々に引き離され、それぞれ異なる方向に進んで二
   度と会うことはなかった……。

 さらにこう続きます(要約します)。
 言語は音と意味からなっている。その音を素材に生みだされたのが「音楽」で、意味がもとになっているのが「神話」である。一方はヨーロッパに辿りつき高度に方法化され「芸術」となった。もう一方は南北のアメリカに流れつき重層的な神話として素朴で繊細な「技芸」となった。この二人の娘が生き別れになった姉妹であることに、いまや誰も気がつかない。しかしレヴィ=ストロースは、その秘密の共通の出自をつきとめ、私たちの前で明らかにした……。

 今福先生は、レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』や『神話論理』を主な導き手として、碩学の根幹にある倫理や方法を、一編の長編詩のような美しく豊饒な言葉と跳躍力のあるイマジネーションで物語ります。

 長きにわたり世代と世代との関係を緊密に結んできた生成(ジェネレーション)と退化(ディジェネレーション)の環。動物たちとの埋めがたい溝を人間の「傷」として受けとめる深い倫理観。「神秘の猫」との一瞬の目配せのなかに潜む「野生の思考」。自然をそのまま受け入れるのではなく、自然から智慧を取り出すために生みだされた人類の叡智たる「構造」や「技巧」についてなどなど。

 レヴィ=ストロースの知性と倫理と方法を豊かにたたえた思惟の森に、本書を片手に飛び込んでみてはいかがでしょうか。


▲カバーをとると星を鏤めた星座にも見える模様が浮かびます

▲本文には20以上の図版が美しく配置されています

▲左ページに写るのはニシコクマルガラスを肩にのせた
レヴィ=ストロース

■目次:
リトルネッロ──羽撃く夜の鳥たち
第一章 ジェネレーション遠望
第二章 サウダージの回帰線
第三章 かわゆらしいもの、あるいはリオの亡霊
第四章 夜と音楽
第五章 ドン・キホーテとアンチゴネー
第六章 野生の調教師
第七章 ヴァニタスの光芒
第八章 人間の大地
カデンツァ──蟻塚の教え
書誌
図版出典
あとがき

■帯文:
レヴィ=ストロースとは何者か。その思考の核心は何か。遺された途方もなく深い森を探索し、夜の豊かなざわめきから、野生の音楽を響かせる、創造的入門書。

■著者紹介:
今福龍太(いまふく・りゅうた)
文化人類学者、批評家。1955年東京に生まれ、湘南で育つ。1982年よりメキシコ・キューバにて人類学調査に従事。テキサス大学大学院博士過程を経て中部大学・札幌大学などで教鞭をとり、2005年から東京外国語大学大学院教授。その間、メキシコ国立自治大学、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、サンパウロ大学等で客員教授を歴任。同時に、キャンパスの外に遊動的な学びの場の創造を求め、2002年より巡礼型の野外学舎である奄美自由大学を主宰。著書に『荒野のロマネスク』(筑摩書房1989、岩波現代文庫2001)、『クレオール主義』(青土社1991、増補版 ちくま学芸文庫2003)、『野生のテクノロジー』(岩波書店1995)、『ここではない場所』(岩波書店2001)、『ミニマ・グラシア』(岩波書店2008)、『ブラジルのホモ・ルーデンス』(月曜社2008)、『群島-世界論』(岩波書店2008)、『身体としての書物』(東京外国語大学出版会2009)他。レヴィ=ストロースとの共著に『サンパウロへのサウダージ』(みすず書房2008)がある。

2011年8月29日月曜日

『〈アラブ大変動〉を読む
   ──民衆革命のゆくえ』刊行



装丁:桂川潤
東京外国語大学出版会 2011年8月10日
A5判・並製・237頁・定価:1575円(本体1500円+税)
ISBN978-4-904575-17-8 C0031

 この夏、小会から酒井啓子編『〈アラブ大変動〉を読む──民衆革命のゆくえ』が刊行されました。

 本書は、酒井啓子先生[本学教授]、ダルウィッシュ・ホサムさん[本学博士課程修了/現アジア経済研究所研究員]、山本薫先生[本学非常勤講師]、松永泰行先生[本学准教授]、飯塚正人先生[本学AA研教授]、黒木英充先生[本学AA研教授]、青山弘之先生[本学准教授]、エルカウィーシュ・ハナーン先生[元本学客員准教授/現カイロ大学准教授]、錦田愛子先生[本学AA研教授助教](以上掲載順)ら、第一線の中東研究者が結集し、アラブ世界の実情と民衆革命の趨勢を詳細に分析した先端的論文集です。2011年3月3日に本学で開催された公開ワークショップの記録とともに、その後の動向を考察した論考と、一連のアラブ情勢に追ったクロニクルを収載しています。

 リビアでは先日、首都トリポリが反体制派の「国民評議会」の攻勢によって陥落し、42年に及ぶカッザーフィー独裁政権は崩壊しました。一方、シリアは予断を許さない緊迫した状況にあり、依然としてアラブ情勢からは目が離せません。
 そんな大変動の雪崩に襲われたアラブ世界で、実際に何が起こり、それはなぜ起こったのでしょうか? そしてそれらの意味するところとはいったい何なのでしょうか? 本書は、そうした根源的な問いに応答するとともに、マスメディアが伝えない革命の〈歓喜〉と〈苦悩〉に迫ります。

■目次より
序章「恐怖の共和国」から「アラブの春」へ(酒井啓子)
【第一部】アラブ世界で何が起きたのか
第1章 アラブ世界の新たな反体制運動の力学(ダルウィッシュ・ホサム)
第2章 社会・文化運動としてのエジプト“一月二五日革命”(山本薫)
第3章 エジプト政変をどう考えるか(松永泰行)
第4章 イスラームと民主主義を考える(飯塚正人)
第5章 アラブ革命の歴史的背景とレバノン・シリア(黒木英充)
第6章 シリアへの政変波及がこれほどまでに遅れたのはなぜか(青山弘之)
第7章 エジプトの「成功」とリビアの「ジレンマ」(酒井啓子)
【第二部】 新しい民衆運動をどう考えるか
討論 アラブ、そして世界への波及をめぐって
エッセイ エジプト革命に寄せて(エルカウィーシュ・ハナーン)
【第三部】 “革命”がもつ意味と世界への影響
第8章 ヨルダン・ハーシム王国におけるアラブ大変動の影響(錦田愛子)
第9章 「革命」をハイジャックしたのは誰か(青山弘之)
第10章 バハレーン──否応なく周辺地域大国を巻き込む民主化運動の「不幸」(酒井啓子)
第11章 イラク──「民主化」された国でのデモは、何を求めているのか(酒井啓子)
口絵 エジプトの民衆デモ──タハリール広場にて
年表 アラブの春・クロニクル

■編者紹介:
酒井啓子(さかい けいこ)
1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。東京外国語大学総合国際学研究院教授。専攻:イラク 政治史、現代中東政治。アジア経済研究所を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』(岩波新書、2002)、『フセイン・イラク政権の支配構造』(岩波書 店、2003)、『イラクは食べる』(岩波新書、2008)、『〈中東〉の考え方』(講談社現代新書、2010)ほか。共編著に『イスラーム地域の国家と ナショナリズム』(東京大学出版会、2005)、『中東・中央アジア諸国における権力構造』(岩波書店、2005)ほか。

2011年8月1日月曜日

『アンナ先生の言語学入門』刊行



装丁:細野綾子
東京外国語大学出版会 2011年7月25日
A5判・並製・331頁・定価:2100円(本体2000円+税)
ISBN978-4-904575-16-1 C0080

 7月20日(水)、小原雅俊先生(本学名誉教授)、石井哲士朗先生(本学教授)、阿部優子さん(本学大学院出身)共訳『アンナ先生の言語学入門』が小会から発売されました。

 本書は、ポーランド生まれの気鋭の言語学者アンナ・ヴェジビツカさんによる言語学の入門書です。言語学のエッセンスを余すところなくちりばめ、世界のさまざまな言葉の用例をふんだんに駆使しながら、言語学の基本概念と研究課題をやさしく、しかもとても興味深く語っています。本学の名誉教授を務められた言語学の巨人・故千野栄一先生も、その平易な語り口で書かれた本書を大絶賛し、かねてより翻訳出版を念願されていました。その古典的な名著が、いよいよ日本語に翻訳されました。ちなみに本書が外国語に翻訳されるのはこれがはじめてです。言語学の研究者はもちろんのこと、言葉に興味をもつすべての人にぜひ読んでいただきたい本です。

■日本語版によせて:
 本書を今日の言語学の世界に位置づけるために、今一度ここで強調したい肝心な点は、言語とは、意味を伝えるために特定の音と形式を用いる、文化的に形作られた、歴史的に発展した体系である、ということです。そして私が考えるに、この「意味研究」という分野こそが、本書が最初に出版されてからここ数十年の間に、もっとも興味深く、もっとも重要な事実が明らかになった分野なのです。……本書が読者にとって多少なりとも、言語についてもっと知りたいという欲望を掻き立てるものになることを願ってやみません。

■目次:
 はじめに
 日本語版に寄せて
 訳者まえがき
 第1章 記号と意味
 第2章 音素から文へ
 第3章 言語の家族
 第4章 接触と交流
 第5章 方言、隠語、文体
 第6章 ことばの統計学
 第7章 言語のプリズムを通して
 第8章 機械が翻訳する
 第9章 「意味言語」とは何か
 あとがき

■著者紹介:
アンナ・ヴェジビツカ(Anna Wierzbicka)
 1938年、ポーランド生まれ。オーストラリア国立大学教授(言語学)。ワルシャワ大学卒業後、モスクワ大学への留学、マサチューセッツ工科大学研究員を経て、68年、ポーランド科学アカデミーにて博士号取得。72年以降、オーストラリアに在住。言語学をはじめ、人類学、心理学、認知科学などさまざまな分野を横断した研究を行っている。著書に本書のほか、『キーワードによる異文化理解 英語・ロシア語・ポーランド語・日本語の場合』(而立書房、2009)、Semantics, Culture and Cognition (1992), Emotions Across Languages and Cultures: Diversity and universals (1999), English: Meaning and Culture (2006)などがある。

■訳者紹介:
小原雅俊(こはら まさとし)
 1940年、福島県生まれ。ポーランド文学者。東京外国語大学名誉教授。著書に『白水社ポーランド語辞典』(共編、白水社)、『ポーランド語基礎1500語』(大学書林)、訳書にスタニスワフ・レム『エデン』(早川書房)、ボグダン・ヴォイドフスキ『死者に投げられたパン』(恒文社)、『文学の贈物──東中欧文学アンソロジー』(編訳、未知谷)、『ポケットのなかの東欧文学──ルネッサンスから現代まで』(共編訳、成文社)などがある。

石井哲士朗(いしい てつしろう)
 1948年、神奈川県生まれ。東京外国語大学総合国際学研究院教授。スラブ語学専攻。著書に『白水社ポーランド語辞典』(共編、白水社)、『ニューエクスプレス ポーランド語』(共著、白水社)など。

阿部優子 (あべ ゆうこ)
 1974年、鹿児島県生まれ。東京外国語大学卒業後、ワルシャワ大学研究生を経て、東京外国語大学博士課程にてタンザニアのバンドゥ諸語を研究。訳書にリシャルト・カプシチンスキ『黒檀(世界文学全集第3集)』(共訳、河出書房新社)など。